慰安婦問題に国連で朝日捏造誤報の政府説明を正確に報じない朝日

◆手のひら返した朝日

 「目が点になる」と産経抄(同紙1面コラム=20日付)は言っている。目が点になるとは驚きあきれ、呆然とすることを指すが、産経抄ならずとも目が点になったはずだ。

 ジュネーブで16日に開かれた国連の女子差別撤廃委員会の対日審査で、政府代表の杉山晋輔外務審議官は慰安婦問題についての事実関係を初めて国連の場で説明。強制連行を裏付ける資料がなかったと述べ、強制連行説は「慰安婦狩り」に関わったとする吉田清治氏(故人)による「捏造(ねつぞう)」で、それを朝日新聞が大きく報じたことが「国際社会にも大きな影響を与えた」と指摘した(産経17日付)。

 これに対して朝日は2日経った18日になって杉山発言は「根拠を示さない発言」と断じ、外務省に「遺憾である」との文書を提出した。目が点になったというのはこのことだ。朝日自身が慰安婦報道の誤報を認めておきながら、いざ国連でそのことが明かされると、とたんに手の平を返したのだ。

 朝日の読者にとってもわけの分からない話だったに違いない。「遺憾」とする文書提出については19日付4面に「国連委発言で慰安婦報道言及 本社、外務省に申し入れ」との見出しで報じているのだが、肝心の一報では杉山発言が言及したという朝日の慰安婦報道について黙殺していたからだ。

 朝日の一報は17日付4面にある。「『不可逆的に解決』 慰安婦問題 国連委で日本強調」との見出しで、杉山審議官が「韓国政府と合意し、『最終的かつ不可逆的に』解決されることを確認したと強調した」などとしていた。

◆記事に「朝日」触れず

 数えてみると43行の記事だが、その中に朝日のアの字も出てこない。だから朝日読者にとっては突然の「遺憾」記事だったことになる。

 朝日の一報の異様さはジュネーブ発の通信社記事や他紙を見れば一目瞭然だ。例えば、共同通信は強制連行が流布されたのは「(吉田氏の)虚偽の証言が原因で、事実として報道した朝日新聞社は2014年に誤りを認めたと説明した」としている。

 また時事通信は「朝日新聞に報道され、国際社会に大きな影響を与えたが、証言は研究者によって『想像の産物』と証明され、朝日新聞も事実関係の誤りを認めていると説明した」と配信している(いずれも現地16日発)。

 産経は17日付1面トップで「強制連行説は『捏造』 『20万人、朝日が混同』」、読売は1日遅れとは言え18日付2面で「吉田証言は完全な捏造」「朝日新聞、誤り認め謝罪」との見出しを立てて詳しく報じている。読売に載った杉山発言の要旨をみると、朝日の誤報について何度も言及していた。

 慰安婦問題の誤解を払しょくするには朝日の虚偽報道に触れざるを得ないのは当たり前の話で、杉山発言の核心がそこにあったのは疑いようもない。それにもかかわらず朝日は黙殺し、「真実を公正敏速に報道」するとした朝日綱領を自らの手で葬ってしまった。これは立派な歴史捏造だ。

 しかも今に始まった話ではないのだ。昨年末、日韓外相会談で慰安婦問題の「最終合意」がなされたが、朝日12月29日付は「慰安婦問題が焦点となったのは、1990年代初めごろから。韓国社会の民主化と、女性の人権意識向上という大きな変化が背景にある」とし、「90年1月、韓国の新聞で慰安婦問題の記事が連載」されたことがきっかけだとして、杉山発言が言及している朝日の虚偽報道については1行も書かず、消し去ってしまった。

◆産経が痛烈なる批判

 しかし朝日は14年8月、「吉田証言」を虚偽と認め、それまで報じた16本の記事を取り消し、同年12月には新たに2本の記事も取り消したほか、木村伊量社長(当時)が引責辞任した。こうした一連の虚偽報道事件を朝日は隠し通す魂胆らしい。

 というわけで、度重なる朝日の歴史捏造に産経抄の目が点になった。編集陣の堪忍袋の緒も切れたのだろう、20日付1面トップの「歴史戦 第15部 日韓合意の波紋(上)」では、「国連委発言 朝日、2日間『沈黙』 慰安婦誤報 自社への言及触れず」と痛烈な朝日批判を展開した。再び産経vs朝日の図だが、朝日に分はない。

(増 記代司)