北ミサイル発射/各紙説く制裁の理由に拉致問題明記を求めた産経
◆中国に制裁決議促す
北朝鮮が7日朝に国際社会の度重なる自制要求を無視し、「衛星」と称して長距離弾道ミサイルを発射した。年初の4回目の核実験強行に対する国際社会の轟々(ごうごう)たる非難が続き、国連安全保障理事会が追加制裁決議を協議しているさなかの蛮行。北朝鮮の核・ミサイル問題は解決がますます不透明となる深刻な局面に直面しているのである。
各紙が8、9日社説で一斉に「暴挙」などと非難し、「厳しい安保理制裁」を求めたのは当然だとしても、似たり寄ったりの主張で、そこから先の鋭い突っ込みで主張の違いを示してこその論説なのに、それが十分とは言えないのが物足りなかった。
比較的ましな読売は北朝鮮のミサイル発射強行を「愚挙の極み」と強く非難し、国連安保理に「実効性のある措置を打ち出すこと」を求めた。その際の問題は中国。「『遺憾』を表明したが、厳しい非難は避けた」中国に「制裁をこれ以上回避せず、安保理決議の採択に協力すべきだ」と迫ったのだ(「地域の安定を揺るがす暴挙だ」)。
一方で、韓国が中国の反対を押し切って「最新鋭の米ミサイル防衛システムの韓国配備について、米国と公式協議を行う」ことを対中傾斜の修正表明と評価。日本の全国瞬時警報システム「Jアラート」や自衛隊の地対空誘導弾PAC3などの運用を検証した上で、さらに「危機管理体制を強化する」こと、日本人拉致被害者の問題で先に「解除した独自制裁の復活や強化」など、北朝鮮の行動に「見合う厳しい措置を取る」ことを求めたのである。バランスのとれた妥当な論考と言ってよい。
◆安保法対処説く日経
北朝鮮のミサイル発射強行への対応と日本独自の対北制裁にテーマを分け2日に渡って論じたのが産経(主張)である。前者では「実効性のある、より強力な制裁を新たに科すことが急務」と訴え、北朝鮮の暴走が止められない大きな要因に「中国、ロシアが北を擁護し、厳しい制裁には慎重な姿勢を変えないこと」にあると批判した。時間が浪費される中で増大する脅威にさらされる日本にとって「集団的自衛権の行使容認を含めた強固な日米同盟が欠かせない」「日米韓の枠組みがより重要さを増している」ことを強調。それが「日本自らの平和と生存に結び付いている問題」だと党派を超えての理解を呼びかけている(「暴挙を止める実効策を急げ」)。
後者では、制裁強化に慎重な中国を動かすためにも「日本は独自制裁の発動で立場を明確にしておく必要がある」ことを説き、「拉致被害者の再調査を理由に一部を解除した制裁の復活を含め、躊躇(ちゅうちょ)することなく独自制裁」の断行を迫った。その際「制裁の理由に、全く進展がない拉致問題も明記し、被害者の救出につなげ」るよう念押しした(「拉致被害者救出につなげ」)。なお産経ほどの突っ込みはないが、読売、小紙、朝日は拉致問題にも言及している。
日経は「国連安保理による拘束力のある追加制裁決議の採択」と国際社会が北朝鮮に「結束して厳しい経済制裁を科し、強い圧力をかけるべき」だとした(「暴挙重ねる北朝鮮に厳しい安保理制裁を」)。その上で、エネルギーや食糧調達で北朝鮮の依存度が高い「中国が正恩体制に打撃を与える経済制裁を着実に実施し、断固たる圧力をかけていかなければ、北朝鮮の蛮行はいつまでたっても止められない」と論じた。
さらに北の核・ミサイル開発への備えにも言及。米・韓と協力し「ミサイル防衛体制をさらに充実させ」る一方で、3月に集団的自衛権が限定使用可能となる安全保障関連法の施行で朝鮮半島有事で「この法律に基づいて何をどこまでやるのか。検討を急」ぐよう求めた。小紙は対北制裁でぶつかる「中国の壁」に絡めて、「米韓が迎撃態勢強化へ終末高高度防衛(THAAD=サード)ミサイル配備をめぐり公式協議を開始する」ことに意味があると評価した(「もう特段の制裁しかない」)。
◆通用しない朝毎社説
毎日(「暴走止める体制を作れ」)も日本の独自制裁を「当然の対応」とし、北朝鮮の行動を改めさせられなかったのは中国の姿勢が「大きい」とした。それでいて「より根本的には、北朝鮮を多国間の協議に参加させ、冒険主義的な行動を放棄するよう誘導する」必要を説く。朝日(「安保理の対処を急げ」)も安保理に「決然とした対処」を求め「中国の責任は重い」とする一方で、6者協議などでの論議の活発化を求めるだけで、それ以上の深入りはしない。それらができれば世話はないのである。
(堀本和博)





