陸自情報収集に「違法性」5人中4人を取り消した二審に朝・読の差
◆「違法」強調する朝日
情報は何事をするにも欠かせない。判断を下したり、行動を起こしたりするための、よりどころとなるからだ。それが安全保障となると、なおさらそうで、より精度の高い情報つまりインテリジェンスが欠かせない。そんな情報収集が違法だとすれば、安保は成り立たない。
ところが仙台高裁は自衛隊の情報収集の一部を「違法」とする判決を下した。どうも解せない判決だが、それを朝日2日付夕刊は1面肩で、まるで鬼の首を取ったかのように「個人情報収集 二審も『違法』」との見出しで報じた。サブには「4人は請求棄却」とあるが、「違法」がことさら強調されている。
記事には「表現に圧力 懸念」との解説も載せ、社会面では「監視 見えぬ実態」と報じ、翌3日付社説では「自衛隊の監視 歯止めはあるのか」と息巻いている。自衛隊の情報収集は違法と言わんばかりの紙面で、他紙には見られない騒ぎようだ。いったい判決は何を言っているのか。
事の発端は、共産党が2007年に自衛隊の「内部文書」を公表したことだ。陸上自衛隊情報保全隊が2003年から04年にかけて自衛隊のイラク派遣に反対する団体やジャーナリストなどの動向を調査していたとする「内部文書」で、東北6県の107人が07年に監視活動の差し止めと損害賠償を求めて訴訟を起こした。共産党の反自衛隊闘争の一環とされた。
断っておくが、自衛隊の情報収集自体は違法ではない。防衛省設置法4条はその業務に防備や警備に「必要な情報の収集整理に関すること」を挙げている。当時、陸自部隊がイラクに派遣され、反対運動が過激化し自衛官やその家族に及ばないか危惧されていた。情報保全隊が反対運動の動向を調査するのは当然だ。
◆共産4議員を認めず
これに対して仙台地裁は12年3月、監視自体は違法としなかったものの、原告5人(うち4人は共産党議員)について氏名や「日本共産党の市議」「社会福祉協議会職員」などの情報記載は違法だとして計30万円の支払いを国に命じた。
仙台高裁の判決はその控訴審のもので、読売には「陸自の監視 人格権侵害 4人認めず」とあり、一審判決の一部が取り消され、原告5人のうち1人だけに慰謝料10万円の支払いを命じたとある(2日付夕刊)。朝日とはニュアンスがかなり違っている。
読売によると、判決は「議員4人については『公の場における政治活動かそれに準じる社会的な活動と評価すべきで、有権者を含む第三者に知られることを前提としており、秘匿性に乏しい』と結論づけた」。当然の判断だ。共産党は破壊活動防止法の調査対象団体で、警察も公安調査庁も調査している。自衛隊の情報収集に違和感はない。
しかし、その一方で判決は反戦ライブなどを芸名で行っていた男性歌手1人について「一般的に公になっていなかった本名や職業を探る必要性は認めがたい」としてプライバシー侵害を認めた。つまり朝日は1人だけを「違法」としたことを強調し、読売はそれを認めなかった4人に焦点を当てていたわけだ。
◆公表したのは共産党
だが、「違法」判決は解せない。裁判官が芸名の人物の本名や職業を探る必要性がないと本気で思っているなら、無責任この上もない話だ。破壊活動などの前科がないとは限らない。本名や職業はその人物の基本情報で、それを探らなくて何が調査か。芸名では裁判も通用しない。朝日記者も本気で知ろうとすれば、芸名だけで満足せず、本名などを調べるはずだ。
問題はそれを公表するかどうかである。内部文書は自衛隊が公表したわけではない。共産党が公表したのだ。現に朝日記事には原告の共産党議員が「党が2007年に公表した陸自の内部文書に、自分のことが書かれていた驚きを今も忘れない」(2日付夕刊)とある。
自衛隊法第59条には「隊員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない」とある。国民にとっては自衛隊の「内部文書」が共産党に漏洩(ろうえい)していたことの方が驚きである。
朝日の報道姿勢もさることながら、こういう視点の記事が皆無なのは首を傾(かし)げる。「違法」判決も問題視すべきだ。
(増 記代司)