金銭授受の告発者に動機語らせ「悪事の不首尾」を「正義」で切る文春

◆なぜ情報を流したか

 「嵌(は)められたのではないか」という声が多い甘利明前経済再生担当大臣への不正献金疑惑。用意周到に金銭授受の記録や面談の録音をしていたことから、そう見られるのも無理はない。これに対して、週刊文春が2月11日号の「第3弾、すべての疑問に答える」で応じている。

 最大の疑問は自らも罪に問われる可能性が高いのに、なぜ告発者は文春に情報を流したのかということだ。告発者は千葉県のS建設会社総務担当の一色武氏。

 一色氏は同誌に言う。「甘利氏を嵌めて、実名告発して、私に一体何の得があるのでしょうか」「嵌めるために、長期にわたる補償交渉や多額の金銭授受、数十回の接待を行うのは、金と時間、労力に見合いません」と。

 そして告発の動機を、「およそ三年にわたり数千万円をつぎこんできたプロジェクトがいいようにタカられていただけだったという怒り、そして悔しさから」だと語る。相当に身銭も切ったというが、そもそも、なぜそこまでしたのか?

 「交渉がまとまれば、補償額の一定割合を『成功報酬』としてもらうことになっていました。私にとって、甘利事務所に使った金は必要経費。口利きがうまくいけば、つぎ込んだ数千万円をはるかに上回る報酬が入ってくるはずでしたから」

 一色氏本人も「ほめられたものではない」と認める“汚い金”の授受だったわけだ。それにしても、告発によってすべてはパーになってしまった。つぎ込んだ金も回収できないどころか、刑事告発される可能性もある。すべての“努力”は水の泡となる。自棄(やけ)になっての道連れだ。

 週刊誌としては大きな話題だったが、もともとは「悪事の不首尾」にすぎない。それを「正義」で切ったところで、「それでいいのか?」という思いは残る。

◆LINE流出の真相

 タレント、ベッキーの不倫問題は本人の「休業」で幕引きになりそうだが、終わってもらっては困る問題がある。「どうやってLINEのやり取りが漏れたのか」が明らかにされていないのだ。当初、この件をスクープした週刊文春(1月14日号)では、不倫相手の「ゲスの極み乙女。」のボーカル・川谷絵音の「将来を憂うある音楽関係者からベッキーと川谷のLINEのやり取りを入手した」となっていた。

 LINEのやり取りは、スマートフォンなどで行われる。その内容を見るには直接スマホを見なければならない。偶然に見掛けて、その画面を“写メ”で撮っておくということはないとは言えないが、文春報道以後のやり取りまで流出するとなると、それはあまり考えられない。当人たちが警戒して覗(のぞ)かれないようにロックするからだ。

 この疑問に答える記事が週刊新潮(2月11日号)に載っていた。「ようやく解明された『ベッキー』の『LINE』だだ漏れの真相」である。同誌は「最も可能性が高いとされるのが、『LINEクローン』なのだ」と言う。

 LINEクローンとは「iPhoneだけに発生する“弱点”」で、端末を換えた時に古い方に残っているデータをもとに、そのまま閲覧できる状況をいう。「パスコードを突破するなどいくつかの条件はあるにせよ」だ。

 だが、本当にこれが「真相」か? 機種変更の時には古い端末を初期化して、データを消すのが普通だろう。たとえ画像や動画などを取っておきたいとして端末を処理しない場合でも、機器は手元に保管するものだ。

 もし川谷が端末を新機種に換えたとして、古い機器を捨てるか譲渡するかして、それからLINEのデータが漏れたのであれば、“犯人”特定はそう難しくないはずだ。個人情報保護やセキュリティーの面からも、もっときっちりと「真相」を突き止めてほしい。同誌の記事で納得しろというのは難しい。

◆週刊誌の”罪滅ぼし”

 この他、文春、新潮両誌とも小保方晴子氏の手記を取り上げ、それぞれの切り口で紹介しているが、新潮の「笹井副センター長未亡人単独インタビュー」は読ませる。当時、メディアが当人たちの真意とは程遠い報じ方をしていたことなど、関係者は心して読んだ方がいい。数年経(た)って「あの時は…」式の記事は週刊誌の“罪滅ぼし”に見えないこともないが。

(岩崎 哲)