中国は「最悪の資本主義国」など中国人の絶望を伝えたエコノミスト

◆民衆の立場から特集

 人口13億人を抱える巨大な隣国、中国。「世界の工場」と呼ばれ、ここ数年の経済成長率はかつてのような10%を超えるほどの勢いはないが、安定成長のレンジである7%台をキープし、世界経済を牽引(けんいん)している。

 その一方で、大気汚染や都市と地方格差、民族問題、政治の腐敗、領土をめぐる隣国との軋轢(あつれき)など国内外で多数の問題を抱える。とりわけ、大気汚染は深刻で日本への影響も懸念されるほど。ちなみに、今年の流行語大賞候補にノミネートされている言葉の一つにPM2・5がある。PMとは微小粒子物質のことで、おもに石炭や石油などを工場で燃焼した際に生じる煙や自動車の排ガスに含まれる微小粒子状物質が呼吸器官を害することで問題化している。中国首都北京や東北部ハルビン市などでは5㍍先が見えない状態にもなるほど。

 そうした中で週刊エコノミストは11月26日号で中国問題を特集で取り上げた。テーマは「絶望の中国」。衝撃的なタイトルだが、小見出しには、「腐敗横行、PM2・5、農民工抑圧」「『政左経右』で強まる言論弾圧」「都市化で増える『死城』」と絶望する民衆を象徴する文句が並ぶ。ちなみに多くの経済誌は中国の動向に関しては、特集ではないものの毎回取り上げる。エコノミストも前週号(11月19日号)でも「中国国営石油会社の汚職摘発」をテーマにした記事を掲載。さらに言えば、今年3月26日号で「中国の破壊力」と題して特集を組んでいる。

◆強権発動に滲む批判

 今回エコノミストが再度、中国の特集を組んだ背景には、習近平体制がスタートして1年を経たこと。さらに今後10年の中国の方向性を示す中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)が11月9日から3日間の日程で行われたことがある。

 「絶望の中国」ではまず、現在の中国の課題を総論的に列挙。大気汚染以外に都市と地方の格差と土地制度、共産党政府による中央集権化などを挙げた。特に都市部に住む住民と地方の農民の格差は甚大だ。中国では戸籍の移動が制限されているため、地方の農工民は社会保障も大学進学も都市住民並みに受けることができない。それらに対する不平・不満が天安門や山西省での爆発事件につながっているわけだが、エコノミストは北京の大学関係者の声として「中国こそ世界最悪の資本主義国。もう誰も共産主義など信じていない」と紹介している。

 また、3中全会を通して見えてくる今後の習近平体制について同誌は、「これまでの政経分離型改革路線と同じアプローチではあるが、政治的保守化、市場経済化は一層深化していく」(呉軍華・日本総合研究所理事)と分析。すなわち、金融の自由化や民間企業の参入基準緩和といった市場経済化を進める傍ら、共産党への権力集中を強化し、言論統制を強め、党と異なった見解をもつ個人・団体の行動に対しては断固排除するといった強権的色彩を強めていくと指摘する。

◆NWコミュニケ解説

 一方、ニューズウィーク(NW)誌日本版11月26日号でも3中全会について取り上げているが、共産党コミュニケの中からは中国の真意は伝わらないと論じている。「12日に採択された3中全会のコミュニケは、曖昧さでは近年でもピカ一だ」と断言。ただ、記事の構成として興味深いのはコミュニケの原文をいくつか紹介し、同誌が解釈している点だ。

 例えば、原文の「最も重要なのは、党の指導を堅持し、党の基本的路線を貫徹し、閉鎖的で硬直した古い道を通ることなく、またその旗を改めるような間違った道も通ることなく、中国の特色ある社会主義を目指す歩みを堅持することである」に対して、同誌の解釈は、「政治改革なんてとんでもない。共産党独裁は永遠に、ということか」と皮肉る。

 資本主義経済は、英国史を見ると分かるように「個人の自由な発想による自発的な経済活動」からスタートし、長い年月の中で成長してきたシステムである。その弊害も出ているが、根底にある「自由」という理念は変わることはない。一方、中国の共産主義的市場経済は、強権的統制と資本主義という矛盾した理念の上に成り立つシステムであるがゆえに、亀裂が生まれるのは当然で、そのしわ寄せを受けるのは非特権階級である。その意味で“絶望的”だが、時がたてばたつほど、また、そのシステムを拡大して遂行すればするほど崩壊は早まっていく。

(湯朝 肇)