電力自由化のプラスとマイナスを見極め、慎重な議論を求めた小紙

◆懸念と期待の各論調

 21世紀を迎える直前であるから、今から15年ほど前に南米パラグアイ、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイを巡るバス旅行をした。途中、車中泊もある強行日程で、パラグアイ南部では夕方から夜の町や村を見ながら走った。途中で、真っ暗な町中を走ったり、近くに見える集落に明かりがなく黒々としている風景が所々にあった。ガイドの説明では、ここらは電気事情が不安定で特に事故などでなくても、よく停電するのだと言うことだった。

 そんな状況が今はどうなっているのか分からないが、あの時は<これは生活が大変だなあ>と思うとともに<これでは産業が発展していかないだろう>と思ったものである。日本でも、東日本大震災による停電やその津波による原発事故で電力の需給が逼迫(ひっぱく)したため一時期、計画停電を経験してきた。改めて、当たり前のように使用している電気、ガス、水道などライフラインの安定は、日常生活の生命線であるだけでなく、産業の発展に不可欠なことを認識したのである。

 その電力事業への新規参入や小売りを自由化する電力システム改革に向けた改正電気事業法が、この13日に参議院本会議で自民、公明、民主党などの賛成多数で可決、成立した。今回の改正法は2020年(平成32年)までに3段階で改革を進める第1弾で、全国10地域に分断される地域間で電力の融通を調整する「広域系統運用機関」を15年をめどに設立することが柱。これにより地域ごとの「縄張り」を解消し、自由競争の基盤を整えるのである。

 第2弾は14年に法案を提出し、16年に電力小売り事業を自由化。第3弾では大手電力が独占する送配電部門を分離し、発電や小売りの競争環境を整える法案を17年に出し、20年までに実現するとしたもので、今回はその第一歩を踏み出したとされる。今回の改正法により報道では「料金競争を通じた恩恵も広がりそうだ」(日経14日付)、「料金値下げや、再生エネルギーの普及につながる効果も期待される」(毎日・同)と期待が持たれる一方で「発送電分離で各社の企業規模が小さくなれば、安定供給に支障が出る懸念」(産経・同)も指摘された。

◆日経はガスにも言及

 改正電気事業法の成立は、日常生活と直結するライフラインに関わることであるし、日本経済の発展いかんとも密接に関係している。テーマそのものは地味ではあっても、秘密保護法案に狂奔する新聞論調といえども無関心でいていい問題ではないのである。

 改正法成立から1週間となった昨日(20日)現在、これを論調の俎上(そじょう)に載せたのは日経(17日付社説)、産経(18日付主張)、小紙(18日付社説)の3紙である。

 日経は電力だけでなく、もう一つのライフラインであるガス事業もひっくるめて「電力とガスは市場改革で歩調をそろえよ」と、改革そのものをポジティブにとらえた。一応「ただし、電力やガス市場を自由化しても、安定供給が損なわれては意味がない」と留保を付けるが、「全面自由化になれば、買い手が電力会社を選ぶ。売り手はより安い料金や魅力あるサービスを提供する必要に迫られる」と消費者の利を説く。電力やガス会社にも「幅広くエネルギーを扱う『総合エネルギー会社』に脱皮すべきだ」と説くが、そんなにいいことずくめだと、かえって大丈夫かと思ってしまう。

◆値上がりなど問題も

 その点で産経はいくつかの問題点を指摘した。「いわゆる『発送電分離』については、電力供給の最終責任をどちらが担うのかなど、不明な点も少なくない」こと。「電力不足の中で競争だけが進むと、料金はかえって上昇する恐れもある」こと。「発送電を分離した米国では、送配電網への設備投資が削減され、大規模停電などの事態を引き起こした」ことなどを指摘。何よりも「安定供給が改革の前提」で、そのためにも「原子力発電所を早期に再稼働させることも、重要な意味を持つ」と着実な改革を求めた。

 小紙は「安定供給の面などで重大な懸念」を示し「改革の実施には慎重を要する」と主張した。「すでに自由化が実施された欧米諸国では、電気料金が値上がりした国が多い」こと、「米カリフォルニア州で2000年から01年にかけて停電が頻発する電力危機が起きた」ことなどを指摘。これらは「市民生活だけでなく、企業にとっても脅威だ」とし、議論は大局的視点から自由化のプラスマイナスを見極め慎重に進めることを求めたのだ。

(堀本和博)