CОP21/中印の削減率がGDP当たりの問題を説明した読売社説

◆危機認識する各論調

 いよいよ待ったなし――となったのが地球温暖化対策である。温暖化の影響は、この10月には観測史上最大級のハリケーンがメキシコを襲うなど世界各地で干ばつや豪雨などの被害をもたらす異常気象として顕在化し、南極や北極の氷を解かし海面の上昇を招いている。このまま気温上昇が続けば島嶼国の一部が沈むと国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は警告しているのである。

 地球温暖化防止に取り組むことに反対する国はない。各国とも総論大賛成だ。しかし、温室ガス削減目標など、そのための具体的行動や義務を伴う各論の段階になると、各国とも利害が絡んできて合意に漕(こ)ぎつけるのは並大抵のことではなくなる。

 正式名称は国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議。長ったらしいので略して気候変動パリ会議(CОP21)が先月30日から、テロ厳戒下のパリで条約加盟全196カ国・地域が参加して行われている(12月11日まで12日間の日程)。

 会議の最大の焦点は、先進国だけが二酸化炭素(CО2)などの削減義務を負った現行の京都議定書(1997年採択)に代わる、2020年以降の温暖化対策の新たな枠組みに合意できるかどうかである。各紙論調も「万が一決裂すれば今後何年も空費するのは確実だ。温暖化が人命や経済、生態系に与える被害はさらに甚大になるだろう」(朝日社説11月30日)、「今後の地球温暖化対策を左右する重要な会議である」(読売同12月1日)、「全ての締約国が参加する実効性のある枠組みを作れるかどうかに、人類の未来がかかっている」(小紙同30日)と強調する意義はその通りだ。

 その上で約180カ国・地域がすでに国連に自主的な削減目標を提出済みで、排出量で全世界の9割超となることから毎日(社説1日)は「合意の土台はほぼ整っている」、産経(主張11月29日)は「課題は残るが、新枠組みへの大きな流れは、既に形成されている。心強い前進だ」と、それぞれやや楽観的に合意を展望。朝日も、これまで消極的姿勢だった最大の排出国の中国や米国の姿勢が変わったことなどから「幸い、これまで決定的な対立は生じていない」「先進国も途上国も温暖化対策に取り組む機運は維持されている」と同様のトーンである。

◆成長で排出量が増大

 これに対して読売は「会議の行方は予断を許さない」と慎重な見解を示した。その理由に先進国と途上国の主張に大きな隔たりがあることを上げ、新たな枠組みで「全ての主要排出国が応分の責任を果たす仕組みにできるか否か」が最大の焦点だとした。

 そして、CОP21に向けた中国の削減目標の問題について具体的に言及した。中国は30年までに国内総生産(GDP)当たりの排出量を、05年比で60~65%削減するとしたが、「これでは、経済が大きく成長すれば、排出量は(それに伴って)増加する。不十分な目標」だと指摘した。米国やEU、日本などはGDPとは無関係に基準年と対比した削減率を提示しているのである。

 例えば読売、産経のCОP21特集解説記事(各1日)では、主要排出国の削減目標を示す表が掲載されているが、記事には中国やインドの削減率がGDP当たりの数字であることの意味が説明されていない。産経記事では大見出しを「米『28%減』達成義務は拒否/中『65%減』途上国代表狙う/印『35%減』資金や技術求め」と並べ、中国などの大幅な削減率を印象付けているが、その数字の意味するマジックについて記事での言及はない。読売社説は、そうした点についての具体的に言及する一方で、だからといって「中国に厳しい目標を求めれば、新たな枠組みから離脱しかねないジレンマがある」ことを指摘した。そのあたりの対応の難しさを読み、展望は「予断を許さない」としたのであろう。考えさせられる指摘である。

◆途上国も自助努力を

 産経(主張)も、途上国代表顔の中国について「1870年以降の累積排出量でも中国は、既にドイツ、英国、日本を抜いている。1990年以降の累積では欧州連合(EU)28カ国分を2008年ごろに凌駕(りょうが)している」と具体的なデータを提示。途上国側主張を代弁し先進国や日本に手厳しい朝日とは逆に「途上国側も一定の自助努力が求められて当然である。途上国側には節度ある交渉を求めたい」と諭す。然り、大事な指摘である。

(堀本和博)