憲法制定経緯と国会の改憲不作為を言うべき「ニッポン人のギモン」
◆解説員がバラエティ
3日にNHKが放送した「ニッポン人のギモン『日本国憲法』」は、あえて疑問を深めない内容だった。番組の触れ込みは「安保法制をめぐる議論などから出てきた日本国憲法に関する様々な“ギモン”。憲法を解釈するとはどういうこと?」だが、占領下の連合国軍総司令部(GHQ)による新憲法制定経緯と、憲法改正発議をする国会が冷戦時代からイデオロギー対立を引きずり改憲を阻んだ政治状況に踏み込まないから、解釈の事情に理解が及ばない。
憲法の公布日11月3日は文化の日に隠れて巷間(こうかん)の認識も薄いところ、9月までの通常国会で集団的自衛権の行使を限定的に認める新たな憲法解釈の下の安保法制をめぐり合憲・違憲論争が注目され、放送はタイミングを得ていた。日頃は硬派の報道番組に出演するNHKの解説委員(西川吉郎委員長、島田敏男副委員長、石川一洋委員、安達宜正委員)が、お笑いコンビや女優らをゲストに「あなたの“もやもや”をスッキリ解消」するという。
乱闘まがいの与野党対立を引き起こしたテーマに、どう疑問を解消させるかは難題であるが、緊張感についてはニュースバラエティの番組で解消できていた。オリエンタルラジオの中田敦彦・藤森慎吾、バイきんぐの小峠英二、女優の足立梨花、紫吹淳らが「憲法って何?」と、そもそもからボケ役さながらに疑問を発していく。
◆事実と違う憲法礼賛
ただ、その落とし穴は、「権力の暴走を防ぐため国の仕事をする人たちが守るべきルール」との近代立憲主義的な回答だ。憲法は「誰のために、何のためにあるのか」の“ギモン”に「国民が国に守らせるもの」(安達氏)との答えは、国民自ら書いて制定した憲法なら合点がいくかもしれない。が、日本国憲法が「ニッポン人のギモン」なのはそうではないからだろう。
ところが、憲法の制定経緯を番組は「GHQ側と日本政府が協議を重ねて出来たものが現在の日本国憲法です」とだけ、あっさり触れた。これに俳優の六角精児が条文朗読して「当時の法律家の人たちが能力を結集して作った文章のような気がします」と礼賛する。となると、日本の法律家たちが占領軍と対等に協同して条文を練り上げた印象になる。「気がします」とは罪な逃げ冗句だ。
日本国憲法は、日本の占領に当たったGHQの最高司令官マッカーサーの指示で同民政局の米軍人らが起草したもので、当時の法律家の能力を結集して作ったものとは言えない。その上、国に主権なく国民一部の公職追放があった占領期に選挙された国会議員によって明治憲法の改正手続きで制定された。日本人は形式的には制定者だが、本質は「占領軍が被占領国日本に守らせる『憲法』」だ。
故に独立国ではあり得ない戦力不保持・交戦権否認の9条がある。この特殊事情を素通りして「(憲法の)原理として一番大切なことは(権力者)に勝手なことをさせない」(中川氏)、「憲法のことを学んでおかないと知らない間に(法律などを)変えられてしまうことがある」(島田氏)と畳み掛けると、9条と乖離(かいり)した現実に疑いが増すだろう。
◆国会に疑問を向けよ
安全保障関連法に話が移ると、番組が「高いハードル」として衆参総議員の3分の2以上の賛成、国民投票で過半数という改憲規定(96条)を説明、安倍内閣が憲法解釈を変えて成立した同法について島田氏が「憲法改正が難しいから解釈の範囲でできることで自衛隊の活動領域を増やそう」としたものと答えた。
案の定、ゲストから「それって憲法改正で出したら絶対に国民に反対されるという意識があるからでは」「じゃあ国民投票してみろよとなっちゃう」という声が出た。島田氏は「素朴な疑問」と受け止めたが、若者の反対デモを捉えてのシナリオだろう。が、国民投票は政府に言うことではない。国会が改憲発議する役割を長らく果たさないことに追及があってよかった。国会が発議しないと国民は公式に意思を示せない。
しかし、話は法案を10本の束にまとめた政府のやり方の批判に流れた。安保法制について何度も「日曜討論」を手掛けた島田氏の説明は分かりやすかったが、番組は、憲法解釈する政府(=国、権力者)と、「憲法は権力者を縛るもので国民が国に守らせるもの」と、政府と国民ばかりを対置させ、国民を代表する国会が国権の最高機関でありながら憲法に対する立法上の責務を果たさず麻痺(まひ)していた政治状況をチェックしなかった。
(窪田伸雄)





