BPО意見書が明言せぬNHKやらせの有無に産、読が社説で追及
◆「クロ現」やらせ疑惑
「『クローズアップ現代』はNHKを代表する番組のひとつであり、その報道内容を信頼してきた視聴者は少なくないはずだ」(日経社説10日)
そのNHKの報道番組「クロ現」のやらせ疑惑をめぐって、放送倫理・番組向上機構(BPО)の放送倫理検証委員会(川端和治委員長)が6日に公表した意見書は、番組に「重大な放送倫理違反があった」と批判した。BPО意見書の公表は翌7日付各紙が大々的に報道し、その報道について小欄はすでに増記代司氏が10日付で論評した。ここでは、その後に各紙が掲載した論調(社説・主張)についてウォッチしたい。
対象となった番組は昨年5月放送の「クロ現」と同4月放送の「かんさい熱視線」の2本。多重債務者が宗教法人を舞台に出家し、戸籍名を変え融資をだまし取る「出家詐欺」を特集した。詐欺にブローカーとして関わったとされた男性が今年3月に週刊文春で「記者に頼まれ架空の人物を演じた」と語り、BPОに人権侵害を申し立てたのである。
BPО委員会の意見書は、番組に「重大な放送倫理違反があった」と批判し、隠し撮り風の場面などでは「事実を歪曲(わいきょく)した」「事実とは著しく乖離(かいり)した情報を伝え、正確性に欠けた」と指摘したが、やらせの有無については明言を避けた。
その一方で、番組をめぐって総務省がNHKを厳重注意したことや与党の事情聴取に対して「圧力そのもの」と異例の言及で政府批判をしたのである。
「クロ現」の問題で焦点となったのは、意見書が明言を避けた「やらせの有無」である。これについてNHKは自局の放送ガイドラインに照らして、今年4月に公表した報告書で「過剰な演出があった」ことは認めたが「事実の捏造(ねつぞう)につながるやらせ」はなかったと結論付けた。
◆自浄作用求めた日経
意見書はNHKの「やらせ」の概念について「視聴者の感覚と距離がある。問題を矮小化(わいしょうか)することになっていないか」と疑問視したが、新聞の論調はさらに厳しく踏み込んだ批判を展開した。
最も厳しい産経(10日)は「(やらせは)なかったと強弁したが、世間一般ではこうした番組づくりをやらせという」と説教。NHKに「まず進んで再検証し、やらせの事実を認めるべきだ」と迫った。小紙(11日)も「いくら否定しても、視聴者の立場では『やらせはあった』と言わざるを得ない」と追及。NHKと民放が共同で設立したBPОがやらせの有無を明言しなかったことに対しても「これでは『身内』への遠慮があったのではないかとの疑いを招こう」と第三者機関としての疑問を突きつけた。
一方、読売(10日)は「『深刻な問題を演出や編集の不適切さに矮小化(わいしょうか)してはいないか』というBPОの指摘を、NHKは深刻に受け止める必要がある」ことに言及。「事実を正確に伝える」報道の基本に立ち返り「取材から番組制作に至るまで、全ての過程の適正化が急務」だと、大局的な観点から説いた。
日経は意見書の指摘が「やらせのとらえ方に関するNHKの姿勢を問いただした」とした上で「NHKは問題を直視し、自浄作用を働かせられる組織なのか。メディアとしての根幹に疑問符を突きつけられた」ことを強調している。
NHKのガイドラインやBPО意見書が、提起されている問題の深刻さを緩和する装置となったり、批判をかわすことに利用されてはならない。新聞の厳しい批判は、両者の甘い追及、突っ込み不足を補う上でも有益である。
◆毎日の政権批判異様
報道同様に異様だったのは毎日(10日)の論調である。前述のテーマについては付け足しのように触れる一方、意見書が総務省による厳重注意や自民党の事情聴取を政府・与党の介入として「放送法が保障する『自律』を侵害する行為」「政権党による圧力そのもの」などと批判したことを支持することに紙数の大半が費やされたからだ。
この問題では産経は「政府や与党が番組介入に抑制的であるべきなのは、当然」、読売も「(自民党が)放送局幹部を呼び出した行為は、明らかに行き過ぎ」と指摘した上で、それぞれ「やらせを認めないNHKの姿勢や、これを迅速、明確に指摘できないBPОの存在自体が介入を招く一因」(産経)、「正確性に欠けた報道が、今回の事態を招いた」(読売)とバランスある指摘をしている。朝日は11日現在、社説なし。
(堀本和博)