BPO意見書をNHK倫理違反より安倍政権批判にすり替える朝毎

◆「やらせ」問う読・産

 事前取材も裏付け取材もなしに、情報提供者の証言に全面的に依存し、報道番組で許容される演出の範囲を著しく逸脱。「隠し撮り」風の取材で事実を歪曲し、スタッフ間で健全なチェック機能も働かず、重大な倫理違反があった――。

 こんな指摘がずらりと並び、弁解の余地はない。NHKの報道番組「クローズアップ現代」の「やらせ疑惑」を審議してきた放送倫理・番組向上機構(BPO)の意見書だ(各紙7日付)。

 NHKは昨年5月、同番組で多重債務者がブローカーを介し出家して戸籍名を変え、住宅ローンをだまし取る「出家詐欺」を特集したが、ブローカーが今年3月、週刊文春に「記者の指示で演じた」と告発。NHKは4月に事実の捏造につながる「やらせ」を否定し、BPOの放送倫理検証委員会が審議してきた。

 意見書はNHKの事実歪曲を批判し、「NHKの『やらせ』の概念は視聴者の感覚と距離がある」と問題を矮小化していると指摘。その一方で、総務相がNHKを厳重注意したことや自民党が同局幹部から事情を聴いたことを「政権党による圧力そのもの」と批判した。

 この意見書を各紙は大きく報じたが、扱いは二分した。読売は1面で「BPO『重大な倫理違反』」、3面で「報道の許容範囲逸脱」と特集し、産経は1面で「『NHK重大な倫理違反』 異例の政府批判も」、社会面ではNHKの「やらせ」定義を疑問視した。いずれもNHKの倫理違反に焦点を当てている。

◆おかしな朝毎の報道

 これに対して毎日は1面トップにベタ白抜きで「BPO 政府の介入批判」の大見出しを立て、肝心の「放送倫理違反を指摘」はリード文の横に小さく2段見出しだ。朝日も「自民の聴取『圧力』と批判」をメインに据えた。両紙ではBPOがまるで「圧力」問題を主に審議したかのようだ。

 さすがに毎日は社会面に「視聴者と認識のずれ 事実歪曲を批判」とNHKの報道姿勢を問うたが、朝日は社会面でも「政権に強い姿勢」と、安倍批判に終始し、「やらせ疑惑」を吹き飛ばしてしまった。首を傾げる報道姿勢だ。

 意見書は全28頁で、「圧力」批判は3頁にすぎない。公平に報じるなら、倫理違反をメインで報じ、産経のようにサブで「異例の政府批判も」とすべきだ。朝日も毎日も「身内」(報道機関)に甘い企業不祥事の構図を地で行っている。

 それにしてもBPOを神聖視し、「圧力」批判を鵜呑みにする姿勢は解せない。産経は「BPOは放送局自身が設置した第三者機関で、放送局の『監督機関』ではない。このため、自民党内からは『お手盛りではないか』などと、BPOの実行力を疑問視する声もある」としている。

 監督機関は総務省だ。テレビ各社は報道機関と言っても新聞とは違って総務相から放送免許を与えられ、公共の周波数を優先的に割り当てられている。それで放送法と電波法に基づき監督を受ける。

 放送法は番組編集に当たって、①公安及び善良な風俗を害しない②政治的に公平である③報道は事実をまげない④意見が対立している問題についてはできるだけ多くの角度から論点を明らかにする―を求めている(第4条)。NHK番組はこれに反するので総務相は厳重注意した。

◆総務省の監督は常識

 これは監督機関として当然で、「圧力」とするのは筋違いだ。確かに放送法は事業者の自律を保障しているが、「行政指導(厳重注意)は法律上の拘束力はなく、相手方の自主的な協力を前提としている」(高市総務相)と考えるのが妥当だ。

 こんな話は総務省の担当記者なら常識だろう。現にNHKの調査報告が問題にされた際、毎日の横山記者は高市総務相の記者会見で「放送法を所管する大臣として、この報告書の受け止めと再発防止といったようなところの観点で、どういった課題があるとお考えか教えてください」と、監督責任を問うている(4月28日、総務省ホームページ)。

 そもそも「重大な倫理違反」を暴いたのは新聞でなく週刊誌だった。そこからNHK批判が起こったが、それをことさら「政府の介入」と論点をすり替えるのは「報道は事実をまげない」に反している。NHKだけでなく朝日と毎日にも猛省を求めたい。

(増 記代司)