英主要紙がCNNでイラク戦争「謝罪」したブレア元首相に一斉反発

◆「曖昧な謝罪」と非難

 ブレア元英首相が米CNNテレビとのインタビューで、イラク進攻について「一部情報に誤りがあった」などと「謝罪」したことに英主要紙は「心のこもらない」「あいまい」と一斉に反発した。

 ガーディアン紙は解説記事で、「悲惨なイラク侵攻に英国を引きずり込んだことに対して心のこもらない謝罪をしたことは驚くに値しない。驚くべきことがあるとすれば、謝罪が遅すぎたことと相手が米国の放送だったことだ」とブレア氏の発言を強く非難した。

 ブレア氏は25日放送のインタビューで、米英主導で2003年に行われたイラク進攻について「(大量破壊兵器に関して)受け取った情報が誤りだったこと」「計画段階でいくつかの過ちがあり、(フセイン)政権排除後に起きるであろうことに関して認識が誤っていたこと」を「謝罪」した。

 進攻が過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭につながったとの見方について「一部は事実」と限定的ながら認める発言をした。しかし、フセイン政権排除については「謝罪は困難」であり、「今もフセイン大統領がいるより、いない方がいいと思っている」と政権打倒の正当性を主張した。

 これに対し英主要紙は「ブレア氏のあいまいな発言はイラク戦争の死者を侮辱するもの」(デイリー・メール紙)、「心のこもらない謝罪」であり「愛する人を失った家族にとって慰めにはならない」(デイリー・ミラー紙)と強い非難で応じた。

◆米編集者は意義主張

 進攻当時のブレア政権は、米国などとともにイラクに進攻、英国人179人が命を落とした。米兵4000人以上が死亡、無数のイラク人も犠牲となった。

 モーニング・スター紙は「受け取った情報が間違っていた…は謝罪ではない。英国と情報機関が間違っていたと非難しているだけだ」と手厳しい。

 また、この時点でインタビューに応じたのは、来年にも公表されるとみられるイラク進攻を調査しているチルコット委員会の報告の機先を制するという意味合いもあるのではないかとの見方もある。

 インディペンデンス紙は「謝罪も中途半端な謝罪も…このような悲劇的な結果を招いた戦争を行う決定への徹底調査の代わりにはならない」と指摘した。

 一方で米紙ニューヨーク・サンの編集者セス・リプスキー氏はイスラエル紙ハーレツへの寄稿で、イラク進攻について「犠牲は大きかったが、それだけの価値はあったと考える。…戦争によって大きな可能性が開かれたからだ」と主張した。

 その一つとしてイラクで総選挙が行われ、民主化に向かっていることを挙げた。また、「イラクの戦争から手を引いていれば謝罪を求められることはなかったが、恒久的な安全も確立できなかった」と指摘、「米国が欧州戦域から米兵を撤退させていれば、自由欧州は生き残っていなかったのではないかと今でも思う。これは、2世代にわたって地上軍を維持している日本と韓国についてもいえることだ」と、米軍による軍事介入の有効性を強調した。

◆米軍撤収も混乱要因

 一方、インタビューでは意図的かそうでないのか、駐留米軍撤収などオバマ大統領の政策がイラクの現状にどう影響しているかについては触れられていない。ISの先駆である「イラクのイスラム国」(ISI)が出現したのは、イラク戦争終結後間もなくであり、IS発生の一因が、ブレア首相の指摘通りイラク戦争にあったことは否定できない。だが、その後、ISが台頭してきたのは、米軍撤収によるイラクでの力の空白の発生と、シリア内戦が長引き、ここでも力の空白が生まれ、ISが成長する温床となったためであり、オバマ政権の責任も問われるべきものだ。

 ブレア氏は「2011年に始まった『アラブの春』もイラクの現状に影響をもたらした」ことを忘れてはならないと終戦後の要因も大きく働いていると主張。また「もっと広い視野で見れば…イラクでは、介入を試み、軍を鎮めた。リビアでは、軍を鎮めることなく介入を試みた。シリアでは、介入を試みることなく政権交代を求めた」と指摘し、アラブの春、リビア介入、シリア内戦へのオバマ政権の対応も、現在の中東混乱の要因になっているとの見方を示唆している。

(本田隆文)