首相中央アジア歴訪/長い目で投資など説く小紙連載・田中哲二氏

◆社説2紙の関心薄さ

 メディアは少し感度が鈍いのではないかと思った。昨28日までの日程で、安倍晋三首相がカザフスタンなど中央アジア5カ国を歴訪し各国で首脳会談を行ったが、随行記者もいるだろうに目立った記事などは乏しかった。歴訪を終えた今日から総括する特集などが出るのかもしれないが、これまではやや期待はずれである。

 「日本には総じてなじみの薄い国々だが、ユーラシア大陸の中央に位置し、地政学的な観点からは重要な地域である」(日経23日社説)のに、社説で論じたのは日経と毎日(24日)だけ。毎日は「日本にとっては中露をにらんで戦略上、関係を強化しておきたい重要な地域である」と論じた。

 あとは読売(26日「スキャナー」)の随行記者による現地からの特集解説が目を引いたぐらいなのだ。読売は「ソ連崩壊後に独立した中央アジア各国は、ロシアに近い一方で親日国も多いが、近年は資源確保を狙う中国の影響を強く受けている」ことに言及。中露を念頭に首相は「自らの訪問で関係をつなぎ留め、日本企業の進出や輸出入の拡大に弾みをつけたい考えだ」とその〈攻めの外遊〉を説く。

 さらに「中露両大国が取り込みを図る中央アジア各国にとって、日本は『安全弁』の一つと言える。(日本との貿易や投資が増えれば)中露への依存度が下がり、安定的な経済運営につながる」と読む中央アジア側の見方も紹介。示唆に富む好解説である。

◆日経など中国に懸念

 一方、少し手前みそで恐縮するが、小紙2人の特派記者が首相歴訪の前に5カ国のうちウズベキスタン、キルギス、カザフスタンの3カ国を丹念に回って足で書いた連載ルポ「中央アジア胎動/中国『新シルクロード』と日本の戦略」(今月14日~23日)も、首相外遊の露払いとしてなかなか光る。

 中央アジアというと、とかく豊富な地下資源だけに注目しがちだが、ルポは中国との国境沿いなどに設置された3国の自由貿易特区、自由産業特区、中継貿易の国際バザールなどの経済活動や鉄道、ハイウエーなどのインフラと物流、進出著しい中国との一大経済圏形成などをつぶさにルポ。日本との関わりでは「いすゞ」のトラックが活躍する現地の鼓動などを伝える中で「ロシアの影響力も依然として強い。中央アジア諸国はこの2大国の狭間で、未来を切り開いて行かなければならない」(小紙17日)ことに切り込んで論じた。

 中央アジアにコミットする中国とロシアは今日、微妙な蜜月関係を演じていると言っていい。「新シルクロード」構想を打ち出す中国は「5カ国の最大の貿易相手は中国がロシアに取って代わるようになり、資源開発やインフラ整備などへの中国の投資も増えている」一方で「安全保障面では今もロシアの存在感が強い」(毎日)。その理由を毎日は、アフガニスタンに隣接することから「イスラム過激勢力の浸透を強く警戒しており、国境警備や治安維持のためにはロシアとの協力が欠かせない」と指摘する。

 日経も「(5カ国は)いまだ国づくりの途上にある。歴史的経緯からロシアの影響力が根強く残っているが、見逃せないのは近年、中国の存在感が急速に増していることだ」と解説。その上で「特定の国に過度に依存する体制には弊害も多い」と危惧する。

◆中露の間で日本模索

 小紙ルポの最終回(23日)で、中央アジア・コーカサス研究所所長の田中哲二氏が中国の陸のシルクロード経済ベルトの狙いについて語る。「プーチン大統領は『ユーラシア経済同盟』を目指して、2010年にロシア、カザフ、ベラルーシ3国の関税同盟をスタートさせ、今年1月にはアルメニア、5月にキルギスも加わった。この動きに習近平主席はこのままでは中央アジア・南コーカサスが再び旧ソ連圏に取り込まれるという危機感を抱き、そうさせないためにも中国主導のより強い『ベルト経済圏』を作ろうとしている」のだ。

 こうした中で日本はどんな関わりを求めていくのか。毎日は「より民主的な開かれた体制への移行に向けて日本がどんな協力ができるかは今後の課題」と言い、日経は「インフラ整備、人材育成などの協力を通じて、より開かれた安定した国づくりを支えていく」必要を論じた。田中氏は「(これらの国々はロシアや)中国が日本に対し厳しい動きに出ようとした時にある程度の抑止力が期待できる」と長い目で見た投資や交流を説くのである。

(堀本和博)