「同性婚」反対国の理由を政治に矮小化したBS―TBS「LIFE」

◆目的や意義に触れず

 今年4月に「パートナーシップ条例」を施行した東京都渋谷区は、この条例に基づいて、同性カップルに「結婚に相当する関係」と認める証明書を発行するための申請の受け付けを近く開始する。「性的少数者」の人権は重要である。しかし、自治体が同性カップルを〝公認〟することで、子供への悪影響や言論・信教の自由への抑圧を懸念する声もある。

 同性婚の合法化と言論・信教の自由が相克することは、米国の混乱を見れば明らかである。米カトリック大学のポール・サリンズ教授の研究によると、同性カップルに育てられる子供は、精神的な問題を抱える割合が高いことが分かっている(本紙19日付報道)。

 こうした同性婚のマイナス面は、実際に合法化されれば、必ず表面化するだろうが、現状でも、同性婚を支持するメディアの報道姿勢は、同性婚に反対することさえ許されない、息の詰まるような社会がやって来ることを暗示している。

 BS―TBSの報道番組「LIFE」(今月18日放送)は、「多様化する『家族』のかたち」と題して、いわゆるLGBT(性的少数者)や同性婚を特集した。同性婚をテーマにしながらも婚姻制度の目的や意義についてまったく触れずに、LGBTの「人権」からのアプローチに偏った、報道番組としては突っ込みどころ満載の番組だった。中でも、言論活動に携わる一人として筆者が危機感を覚えたのは、同性婚をめぐって世界が二分化されていることに触れた場面だ。

 同性婚は現在、21カ国で合法化されている半面、アフリカ、中東を中心に80カ国で禁止する。合法化した国の代表として番組が取り上げたのは米国。大統領2期目の就任式で「同性愛の人たちが法の下であらゆる人と平等になるまで我々の旅は終わらない」としたオバマ大統領の言葉を紹介。また、今年6月、米連邦最高裁が同性婚に合憲判断を下したことに対して、「基本的人権を待ち望んできた同性カップルにとっての勝利だ」と評価した同大統領のコメントも流した。

◆政治家の人気取り?

 一方、反対派の国として取り上げたのはロシアとジンバブエ。2013年6月に「同性愛宣伝禁止法」で、未成年者に同性愛を肯定したり、推奨したりすることを禁じたロシアのプーチン大統領が「同性愛自体は禁止していないので、同性愛者は安心していい。ただ、子供たちには関わらないでほしい」と語った映像を放送。また、ジンバブエのムガベ大統領が「他の国ではどうだか知らないが、アフリカではゲイの世界を信じない」と述べた場面も映し出した。

 この後には「時に独裁政権を維持するために、同性愛を政治利用する動きもあるといいます」というナレーションを流すとともに、ジンバブエで生まれ育ったという女性活動家の次の発言を紹介した。

 「アフリカにはムガベ大統領のように権力の座を降りたくないリーダーがいます。任期を延ばしたい時、人気を集めるために『反同性愛』を唱えるのです」

 極めつけは、番組コメンテーターの「フォーサイト」元編集長、堤伸輔の分析だ。「ムガベ大統領もそうですし、同性愛に関する宣伝を禁止したプーチン大統領もそうですが、為政者が自分の人気を高めるために、反欧米の価値観を訴えるために(反同性愛を訴える)。その中には、非常に危険なレトリックもあって、かつてナチス・ドイツが言ったように、ユダヤ人に対する差別的な言い方として子供に悪影響を与えるとか、そういう言い方をアフリカでも中央アジアでもロシアでも政治家が言っている」

◆ナチスに重ね悪印象

 要するに、強権的な政治家が同性婚に反対するのは政権維持のための政治利用であり、そのために「子供への悪影響」を訴えているというのだが、そんな政治家ばかりではないだろう。自らの信念から社会の将来を憂えて反対する政治家もいるはずだ。

 しかも、同性婚が子供に対して悪影響を及ぼすのか、どうかは政治利用とは別次元の問題。その真偽をまったく検証しない上に、ナチスと関連づけて論じる報道姿勢からは、反同性婚は「悪」とする印象操作の意図が透けて見える。

 国際オリンピック委員会は昨年12月、五輪憲章に「性的指向による差別禁止」を盛り込むことを決議した。5年後の東京五輪を控えた日本のメディアが、同性婚に反対する人間に「人権抑圧」のレッテルを貼る風潮を強めるのは間違いない。

(森田清策)