財務省案をポシャり、「軽減税率」案の検討推進で終始リードした読売
◆設計を急げとハッパ
新聞各紙が社説で主張した通りの展開になっている。2017年4月に予定されている消費税率10%への引き上げ時の負担緩和策である。
自民・公明の与党税制協議会は当初、公約通り、複数税率の軽減税率を検討していたが、軽減する品目の線引きなどの難しさから財務省に丸投げし、同省が考案した還付型の負担軽減案を良しとした。
ところが、周知の通り、同案は著しく消費者に負担を強い、また個人情報漏洩(ろうえい)の懸念の少なくないマイナンバー制度を利用し、そして何より、痛税感を和らげる効果の乏しい還付型(後に増税分の一部を銀行口座に振り込む)だったため、新聞を始め大きな反発を食らったのである。
政府も結局、官房長官や首相までが財務省案にダメ出しし、同案を強く支持していた野田毅自民税調会長を交代させ、宮沢洋一前経済産業相を新会長に起用して軽減税率での検討を指示した。
こうした一連の動きにおいて、新聞では特に読売が報道、論説とも他紙をリード。今回の自民税調会長の交代劇でも、15日付社説は「軽減税率導入へ態勢立て直せ」との見出しで、新税調会長は「これ以上、時間を無駄にすべきではない。食料品などの税率を低く抑える軽減税率の制度設計を急ぐ必要がある」とハッパをかけた。17年の消費税再増税に間に合わせるには、「今年末に策定する税制改正大綱で導入を確定せねばならない」(同紙)からである。
◆当面簡易方式採る産
景気の現状は、7~9月期も実質GDP(国内総生産)は2期連続のマイナス成長になるとの見方が出るほど芳しくない。とても再増税できる状況ではないと思うのだが、首相がリーマン・ショックのような、よほどの事態が生じない限り再増税延期はないと表明している以上、読売もこれを支持し、再増税時には増税の影響を和らげる負担軽減策の実効を確実に上げたいということのようである。
読売が「心配」するのは、軽減税率を同時導入できないと、昨年4月の8%への増税時に採用した「簡素な給付措置」が続きかねないことである。低所得層のみを対象に一時金を支給する給付措置では「消費の落ち込みの防止効果に限界がある」(同紙)からで、「全ての消費者が買い物のたびに恩恵を実感できる軽減税率こそ、有効な家計の負担緩和策になる」(同)というわけである。
軽減税率では取引ごとに税額や税率を記入するインボイス(税額票)が不可欠で、事務負担が増えるとの批判があるが、インボイスは欧州やアジアで広く普及しており、読売が「日本だけが採用できないはずがない」と言うのも道理である。
産経も読売と同様、軽減税率の導入を強く主張。特に15日付「主張」(社説)は、「導入への首相指示は重い」(見出し)として、財務省、自民税調に対し「今後は、円滑な導入に向けて全力で取り組むべきである」と訴えた。
同紙は軽減税率で議論の焦点となるインボイスの作成で、現在の請求書に税額を記載すれば代替できるという専門家もいるとして、「当面はこうした簡易方式を採用し、その後、本格的なインボイス制度に移行するなど段階的な仕組みを視野に入れてもよかろう」と提案するが、一考に値しよう。
◆幅広い対象求める毎
首相が軽減税率について10%への引き上げと同時の導入を宮沢新党税調会長に指示し「議論の迷走が収束した」と評した毎日(15日付社説)も、「原点に戻り成案を急げ」と訴えた。
成案づくりでは、どの品目を軽減税率の対象にするかという線引きが、税収減少の規模との兼ね合いで焦点になるが、毎日は「難しい作業だが、軽減税率の趣旨をふまえ、幅広い品目を対象にしていく姿勢が欠かせない」としたが、同感である。
この社説の中で、昨年の増税の際に取られ、先に読売が「心配」した給付措置について、「個人消費の低迷は防げなかった。この段階で、軽減税率の必要性ははっきりしていた」と指摘したが、それが軽減税率の趣旨ということである。
ただ、個人消費の低迷を本当に重く見るなら、それがもたらす設備投資など景気や税収への影響をも考慮し増税延期という選択肢もアリと思うのだが。
(床井明男)





