安保法で分かれた新聞各紙の社論への賛否を所属記者に聞いた現代

◆「反対」の出方に興味

 集団的自衛権の行使を認め、自衛隊による海外での武力行使を可能にした安保法制をめぐっては、新聞各紙の論調はくっきりと分かれた。朝日、毎日、東京新聞は「違憲」の疑いが強いとして反対し、読売、日経、産経新聞は国際情勢の変化に鑑み、安保法制は必要とした。

 「現場の新聞記者は、所属する新聞社が掲げる社論にホンネのところで賛成だったのだろうか、それとも反対だったのか」―。これは新聞読者としても知りたいところで、いかにも週刊誌らしい関心の向け方だ。週刊現代(10月24日号)が「新聞記者100人に大アンケート 安保法制『社論に賛成?本当は反対?』」と題して企画したもので、「紙面からは窺がえない、記者の本心が明らかになった」とは興味をそそる。

 ここで読者が期待するのは、社論とは反対の意見がどれほどあるか、というやや捻(ひね)くれた関心だろう。反対が最も多かったのが朝日新聞と毎日新聞で15%。続いて東京新聞の14%。この3紙は安保法制に強く反対していたのだが、社論には納得していなかったわけだ。と言っても、社論に反対が即、安保法制に賛成という単純な図式ではないことを承知しておかなければならない。

 朝日新聞の40代男性は、「憲法9条を国際社会の中で武力放棄を貫く『武器』にしていた。それは単なる平和主義ではなく、国民の生命を守るためのしたたかな戦略でもあった。そうした深い考察はなく、単なる『戦争反対』の社論だったのが残念」と述べている。「戦争反対」という単純な“攻め方”への不満があったということだ。

 新聞として、安保法制への深い考察が足りなかったという反省を持つ記者は賛成反対の立場を超えて多い。安保法制を違憲だとして反対している毎日新聞の40代男性は、「この国をどうして行くのかという大局的な議論がないまま、法整備だけが進んだ」と惜しむ。読売新聞の40代男性も、「政権与党の説明不足は否めない」として、国会議論がまともに行われなかった点を指摘した。

◆関心が低かった日経

 社論に反対したり、疑義を挟むことができるのは「言論の自由」が行き渡っていることを示しているが、安保法制に賛成であろうが、反対であろうが、社論を支持する記者は各紙とも70%以上いて、同誌は、「記者の多くが自社の主張に賛成しているように見える」と分析している。

 ただ産経新聞では社論に91%が賛成し、9%が「どちらでもない」と答え、反対が皆無だったのが特徴的だ。同社内で反対を叫ぶ記者はいなかったのだろうか。

 結局、アンケートを見てみると、安保法制に反対の朝日、毎日、東京では社論への疑問を持つ記者が比較的多く、「単なる『戦争反対』を叫ぶだけで、議論を深められなかった」という不満があり、憲法論から国際情勢認識までじっくりと議論を進められなかったという反省があるようだ。

 一方、読売、日経、産経では社論との不一致が少なかったが、中でも、日経の「どちらでもない」が37%というのは、いくら経済紙としても関心が低すぎるだろう。同誌は、「経済紙でもある同紙(日経)の記者には、安保法制に対する関心の薄さもあるようだ」としている。

◆新聞の併読を勧める

 安保法制をめぐっては新聞によって立場が鮮明だった。複数紙を購読している読者はそう多くはなく、1紙だけを読んでいれば、その論調に染まっていく。

 「作家の髙村薫氏」は同誌に対して、「新聞によって報じられている中身が全然違いました。こんなことは過去にあまり経験がありませんね。世論というものが、取っている新聞によって左右されるのだと痛感しました」とし、「新聞報道とは起った物事を正確に伝えることが一番大きな役目」と釘(くぎ)を刺した。

 同誌は、「社内に多様な意見があることは、言論機関として健全だ。そして読者の側には、一つの新聞の主張が『正義』だと決めつけない冷静さが必要だろう」と記事を結んでいる。興味をそそる企画だった割には、当たり前の結論に落ち着いた。「社論に反対な奴(やつ)は誰だ」と新聞社内で“犯人探し”が起るようなインパクトはなさそうだ。

(岩崎 哲)