ラグビーW杯五郎丸選手の転機に声掛けの力を知らしめた「新報道」

◆“格下”からの挑戦者

 ノーベル医学生理学賞に大村智・北里大特別栄誉教授、ノーベル物理学賞に梶田隆章・東京大宇宙線研究所長が受賞に輝き、ラグビー・ワールドカップ(W杯)1次リーグでは日本代表が優勝候補の南アフリカに勝つ「ラグビー史上最大の大番狂わせ」を演じた。半ば予想外のニュースにテレビも賑(にぎ)わっている。

 ともに“格下”からの挑戦者だ。大村氏は山梨大学、梶田氏は埼玉大学と国立大学が一期校、二期校に分かれていた頃の二期校出身、番狂わせが起こりにくいラグビーで世界ランキング3位の南アとの試合に臨んだ時の日本は10ランク下の13位。

 それだけに吉報に沸いたが、受賞者や選手の地道な時代に身近な支えがあったことが語られている。そのような声援がプロ契約の年収に勝る効果があったと教えられるのは4日放送のフジテレビ「新報道2001」。3日のサモア戦を受けた「ラグビーW杯サモアに勝利/外国人選手の“大和魂”」の報道で五郎丸歩選手について触れたものだ。

 早くから素質を認められながら、プレーは「怠け者」など過去に指導に当たったコーチやマネージャーが証言し、2009年日本代表合宿で「帰れ」と監督から叱責された際に、「反発のエネルギーは湧いてこなかった」と同選手の著書『不動の魂』からの一文を紹介。W杯出場は適(かな)わなかったという。

◆リストラ時代を紹介

 転機は所属企業(ヤマハ)の経営難。「ヤマハ『プロ契約』廃止へ」という見出しのスポーツ紙を映しながら「ラグビーだけをしていれば1000万円の年収があったプロ選手から、会社の仕事をしながらプレーする社員選手に変更、給料も一般社員並みに下がった」とのナレーションが逆説的だった。

 09年と言えば、前年の08年に米国発の金融危機が世界経済を巻き込み、我が国も一大リストラ時代となった。「派遣切り」とか「格差拡大」が叫ばれた世知辛い時世にプロから社員の待遇では、普通は「転落」と考えてしまう。

 しかし、同番組が紹介した五郎丸選手の「転機」とは、社員になり身近に接している人たちからの「応援に行くから頑張ってねとか、勝って良かったねとか、応援に行って本当に良かった」といった声掛けであり、「学生時代やプロ選手の時とは違った喜びだった」という。練習方法や実技面でなく、その平凡さが意外だった。

 声の掛け合いとは力になるものだ。「プロでやっていたとき以上に自分たちのプレーが感動を与えられるんだなと分かったんじゃないか」と、当時の上司はコメントしていたが、心に張り合いが持てたのだろう。番組は「自分だけのプレーから、自分を支えてくれる人たちへのプレーへと大きく成長した」と結んだが、経営難にあって職場の雰囲気が悪かったらこうはなるまい。

 「外国人選手の“大和魂”」では、キャプテンのリーチ・マイケル選手がホワイト・ボードに国歌・君が代の歌詞をローマ字にし、意味を英文にして外国人選手に教えている写真を紹介。15歳のときニュージーランドから来日してラグビー選手として成長した同選手の妻、リーチ・知美さんらが「日本を思う気持ちは日本人以上」などと話していた。プロ野球の助っ人外人のように考えてしまうところだったが、国歌を斉唱し、国旗を掲げ、国と国の代表が競うW杯の外国人選手は日本への帰属意識を培っており、「まして日本人が」、と思わされる。

◆中国人「爆買い」減る

 ところで、同番組やテレビ朝日「報道ステーションSUNDAY」が、中国の建国記念日に当たる1日の国慶節からの大型連休(1~7日)に訪日した中国人観光客を話題としていた。春節のような「爆買い」を待ち受けたものの、やや肩透かしを食ったようで、それぞれ6月の中国の株バブル崩壊を分析していた。

 他に「爆買い」が減った理由について、「新報道」ではジャーナリストの富坂聰氏が、日本の商品の買い物を「代行」する中国サイトを、「報ステS」では中国の関税率引き下げを挙げていた。商品は流通し、流通は利便性を追求する。買い物目当てだった訪日客は中国国内で商品のリピーターとなったのだ。

 「報ステS」は、観光リピーターの女性グループや若夫婦ら個人旅行客を通して、原宿、表参道、秋葉原など日本の若者同様に趣味、流行、食を楽しむ光景を映した。観光はやはり「その場所ならでは」に価値がある。

(窪田伸雄)