若田さん2度目のISS長期滞在に宇宙開発の「夢」託す読売、産経
◆日本初の宇宙船船長
約半年にわたる若田光一さんの2度目の国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在が始まった。7日にカザフスタンのバイコヌール宇宙基地から、若田さんら3人の宇宙飛行士を乗せたソユーズ宇宙船が打ち上げられ、約6時間後の当日のうちにISSに到着し、早くも活動を開始した。
若田さんの宇宙滞在は米スペースシャトルを含め、今回で4回目。日本人初のISS組み立て作業従事、日本人初のISS長期滞在と「日本人初」のミッションが少なくない若田さんだが、今回も長期滞在後半の約2カ月は、日本人初のISSコマンダー(船長)を務める。
文字通り、船長としてISSの維持管理や各種の実験実施の司令塔となり、また、緊急時の米露乗組員5人の安全確保など滞在ミッションのすべてに責任を持つ。
こうした大役を担う若田さんに対し、社説で論評したのは8日付の産経、9日付の本紙、10日付の読売の3紙のみで、少し寂しい感じがする。
「宇宙での夢を広げる機会に」との見出しの付いた読売社説は、これまでの船長はほとんどが米露の軍人出身者だったことを挙げ、「若田さんには、日本の宇宙活動の水準の高さを示してもらいたい」と期待を表明。また、日本の実験棟「きぼう」でのメダカを使った生物実験やアイソン彗星の観測などを通じて、「子供たちが宇宙活動の夢を広げる機会にもなろう」とその意義を説いた。
◆長期構想求めた産経
産経も見出しに「有人活動の『夢』を伝えて」と、読売同様に「夢」の字を入れたが、産経の方は、切羽詰まった意味が込められている。
それというのも、有人宇宙活動の将来に厳しい現実が待っているからだ。産経や本紙が記すように、わが国のISS計画などの有人宇宙活動は、新しい宇宙基本計画で「縮小」の対象となっているからだ。
日本のISS関係費は年間約400億円。2016年以降も米露などと同様に継続が決まったものの、「費用に見合うほどの成果がみえない」との批判もあり、削減される方向にあるのだ。
このままでは、「日本の有人宇宙活動は縮小の一途をたどりかねない」(産経)状況にあるだけに、産経が若田さんに対し「国民が胸をときめかせる活動を期待したい」と強調するのも、肯(うなず)ける。同紙が記す「子供たちの夢を膨らませることが、将来の宇宙開発の原動力にもなろう」は、展望というより切実な願いに近い。
産経は、ただ願うばかりでなく、「このままでは、若田さんらが積み上げ、さらに重ねる有人活動の経験と実績を、次世代につなぐこともできない」として、政府に対し、「早急に宇宙開発の長期構想を固める必要がある」と訴える。同感である。
宇宙開発の方向性を示すものとしては宇宙基本計画があるが、対象期間は今年からの5年間である。しかも、予算の制約もあり、実利用に重きを置くものになっている。
米国は30年代の有人火星探査を目標に掲げ、中国は独自の宇宙ステーション建設を目指しているが、「日本政府は、独自の有人宇宙船開発の是非など宇宙開発の将来像にかかわる議論を棚上げにしてきた」(産経)のである。
◆ISSの前途に影響
今月初旬に慶応大学で開かれた宇宙法シンポジウムに講師として招かれた元宇宙飛行士で、現在は国連で宇宙関連の仕事に従事する土井孝雄さんは、大学が小型衛星の開発・打ち上げに活発なのに比べ、「スペース・エージェンシー(政府の宇宙開発事業担当=宇宙航空研究開発機構のこと)に元気がない。それは(長期の)ビジョンがないからではないか」と語った。外からも、日本の宇宙開発はそう見えるということである。
ISSそのものについても、前途は多難のようで、読売は「今や、曲がり角に来ているとの見方も出ている」と指摘する。運用のための巨額の経費に、参加各国が頭を悩ませているからである。
それだけに、「逆風の中、若田さんたちが今回、十分な結果を出せるかどうか。世界が注目している」(読売)ということである。
もっとも、若田さんらの活躍だけで、日本を含め各国の財政事情が明るくなるわけではないが、世論を通じて政府を動かすしかないということか。
(床井明男)