財務省「軽減税率案」に「欠陥だらけ」「無責任」と厳しい批判する各紙
◆いずれも尤もな指摘
2017年4月に消費税率を10%に引き上げた際に、財務省が検討している負担軽減案が明らかになった。欧州各国が導入している複数税率方式は見送り、酒類を除く飲食料品の2%分を、購入後に消費者に還付するというもの。消費額の把握にはマイナンバー(社会保障と税の共通番号)制度を活用するという。
昨年4月の消費税増税の際には、「簡素な給付措置」として低所得者向けに1万~1万5000円の給付金を還付したが、またしても、この形である。今回はマイナンバー活用と、一見、正確を期し公平さをアピールするような形にはなっているが、社説での各紙の論評は非常に手厳しいものになっている。
日付順に掲載3紙の見出しを記すと、毎日(6日付)「給付金では代替できぬ」、読売(7日付)「『面倒くさい』で済まされるか」、産経(8日付)「ばらまきにすり替えるな」である。
それぞれに批判の内容に強弱はあるが、いずれも尤(もっと)もな指摘である。問題の第一点は、負担軽減策が「給付金」になった理由である。それは、麻生太郎財務相が会見で端的に説明した通り「複数税率を入れることは面倒くさい」のである。読売が社説の見出しにした内容である。
◆公約の実現問う各紙
確かに欧州の例からも、軽減税率の対象品目の線引きは難しいのが現実で時間がかかるが、だからこそ、昨年4月の増税では「簡素な給付」にしたわけである。だが、自民、公明両党は13年12月に軽減税率の導入で合意し、14年の衆院選公約にも掲げていた。さらに税率10%への引き上げ時期が1年半先送りされたことで「制度設計を検討する時間的な余裕もできたはず」(毎日)だから、毎日が「公約やこれまでの検討過程をないがしろにして、面倒だからやめたでは済むまい」と言い、読売が「あまりに無責任ではないか」と言うのも肯(うなず)ける。
給付金の「効果」も問題である。消費者は税率10%で代金を支払うため、負担軽減の実感が乏しく、後で受け取った給付金は貯金に回る可能性もある。「給付金の景気の下支え効果には限界がある」(産経)というより、「消費を冷え込ませる恐れが強い」(読売)のである。現に、昨年4月の消費税増税では消費を中心に景気は財務省の想定以上に大きく落ち込み、今尚(なお)、その影響を引きずっている。
財務省案には他にも問題が少なくない。2%分の税額が後に還付されるといっても、限度額があり、すべてが戻ってくるわけでないこと。最新の報道では、年平均1人20万円の食費想定で年4000円程度が上限という。
マイナンバー活用ということで、消費者はマイナンバーカードを常に持ち歩く必要がある(忘れれば、還付金の対象にはならない)。マイナンバー活用でも自動で還付金の処理が行われるわけではなく、申告手続きが必要である。個人情報流出の懸念もある。
そして何より、読売が指摘するように、小さな商店まで、くまなくマイナンバーカードの読み取り機を設置し、データ管理のシステムを構築することが、17年4月までに可能なのかどうか。
複数税率の軽減方式に比べ、財務省案は事業者の事務負担は軽くなるが、新たに読み取り機設置の必要があるなど他の負担も少なくない。読売が「欠陥だらけ」と批判するほど問題点山積なのである。
各紙が批判を強めるのには、今回の財務省案の負担軽減策に、欧州各国では軽減税率が適用されている新聞が対象になっていないということもあろう。財務省案では、酒類を除く飲食料品以外の品目の取り扱いは今後検討する、となっているからである。
◆景気で税収に知恵を
9日付本紙などの報道では、財務省からこの負担軽減案の説明を受けた自民、公明両党は大筋で了承する考えという。公明党に一部異論があるというが、各紙の言う通り、これまでの選挙公約はどうなっているのかと問いたい。
また、各紙もそうだが、17年4月の消費再増税の影響を心配するのなら、その延期や中止という選択肢はなぜないのか。高齢化に伴い社会保障費は膨らむため、「今後も消費税率の引き上げは避けられない」(毎日など)ということなのだろうが、景気を痛める増税でなく景気をよくして税収を増やすことに、より知恵を絞った方がいいと思うのだが。(床井明男)





