警察発表3万余の国会デモに主催者発表「12万人」を検証をする新潮
◆見過ごせない水増し
虚構の数字が歴史に刻まれる。例えば「南京大虐殺30万人」とか「朝鮮人従軍慰安婦20万人」とか、根拠薄弱、謀略優先の誇張された数字が、その場だけで消えれば大きな問題とはならないが、これが歴史に残され、確定数字として記憶されるとなると話は別だ。
8月30日、国会前で行われた安保法制反対デモ参加者数が「12万人」(主催者発表)で定着していきそうである。警察発表の「3万3000人」の3・6倍である。デモの動員数は訴えへの支持度を量る物差しとして使われるが、それが水増しされれば、国民が誤導される可能性も出てくる。なので、「12万人」検証が新聞、週刊誌でしきりに取り上げられるのだ。
週刊新潮(9月10日号)は「『国会デモ』は張りぼてのデモ」の記事を載せた。デモ参加者は主催者と警察の発表が「概ね2倍ほどの開きになるのが普通でした。今回のように4倍にも開くなんて、これまで聞いたことがありません」と、「佐瀬昌盛・防衛大学校名誉教授」のコメントを載せている。
「ジャーナリストの徳岡孝夫氏」は、「警察発表13万人を動員した60年安保闘争のインパクトはこんなものじゃなかった」として、“わずか”3万3000人のデモで大騒ぎするのがおかしいと言わんばかり。取材するメディア人も、60年70年安保闘争など「歴史の彼方」という若い世代だから、たかだか4万弱の群集でも、「大騒動になっている」と面食らったのだろう。
だが、その中で意図的に「12万人」と報道したのが、共産党機関紙「しんぶん赤旗」だ。「党勢拡大の好機とばかりに」安保法制反対、安倍内閣打倒盛り上げを狙って「十数万人を既成事実化し」(同誌)、今回のデモを「大いに利用したことは間違いあるまい」というわけである。
◆LINEで若者参加
とはいえ、学生を中心に若者がこれだけ政治的課題に対して積極的に行動し、発言しているのはここ数十年なかったことだ。デモを主導している「SEALDs」(シールズ)とはどういう団体なのか。「自由と民主主義のための学生緊急行動」の略で、「カチッとした組織ではなく、名簿などもありません」と、「主要メンバーの一人である、筑波大学3年生の本間信和君」は同誌に語る。共産党など「特定の政党や組織と組んでいることはありません」と、政党色も否定した。
60年代70年代のようにヘルメットに角材、タオルマスク、角文字のアジビラ、立て看板、というスタイルではなく、Tシャツに短パン、ビラも美大生が作るビジュアルなもの、資金はカンパを募り、連絡は無料通話アプリの「LINE」で取り合う。リーダーはおらず、班の責任者を「副司令官」と呼ぶ。要するに、昔の学生運動に比べると“お洒落”なのだそうだ。
週刊文春(9月10日号)がその「リーダー的存在」の奥田愛基(あき)氏(23)にインタビューしている。明治学院大学4年に在学中の奥田氏は集会で安倍首相を「バカ」呼ばわりして、一躍メディアだけでなく官邸からの注目も集めた人物である。
発言を読む限り、政党や新左翼の背景もなさそうだし、辺野古を取り巻く運動員のようなプロっぽさもない。デモで国政を変えられるという“幻想”も抱いていないようで、けっこう「普通」なのだ。
◆中西氏ベ平連を懐古
「京都大学名誉教授の中西輝政氏」は、「戦後左翼運動のサイクルに過ぎない」として、「若い世代が政治化するサイクルが回り出したのです」と分析する。「シールズの活動をみると、太鼓を叩いて短いフレーズを叫ぶのも、ベ平連がやってたなと。新しいようで我々の世代には懐メロに見えてしまうのです」という。(ベ平連は「ベトナムに平和を!市民連合」の略称)。
奥田氏は、安保法案可決後について、同誌に「わからないです」と答え、「個人的にはいま起こっていることを学問的に書き残した方がいいと思うので、修士課程に進みたい」と述べている。
シールズがベ平連化していくのか、消えていくのか、見ていかなければならない。香港の民主化要求デモ、台湾のヒマワリ学生運動、日本のシールズ…、政治運動のサイクルが来ているのだろうか。
(岩崎 哲)