イラン「穏健化」期待しNYタイムズ・フリードマン氏が核合意支持
◆中東通コラムニスト
欧米など6カ国は7月中旬、イランとの間で核合意を交わした。9年越しの協議に終止符を打つ「歴史的合意」(オバマ米大統領)だ。だが実際にイランの核開発を阻止し、中東の安定化に貢献するものなのか、疑問は解消されていない。
著名なコラムニスト、トマス・フリードマン氏はニューヨーク・タイムズ紙(電子版2日付)で「15年間、イランが爆弾を製造する可能性を減少させ、イランの過激な宗教政権が世界との統合を深めることで穏健化する可能性が生まれる」として、核合意を支持した。
フリードマン氏は中東特派員として現地滞在歴も長く、2002年のサウジアラビアの中東和平案のスクープでも知られる。
同氏は、退役将官200人が「国家安全保障の脅威となる」として核合意を否決するよう求める書簡を米連邦議会に送ったことについて、「中東からの米国への真の脅威に関して大変な間違いを犯している」と非難した。
退役将官らは「世界でナンバーワンのイスラム過激派はイランだ」とした上で、「この地域と世界全体への過激なイスラムの提供者であり、そのイランが核兵器を持てるようにしようとしている」として合意に強く反対している。
核合意は、国連安保理と交渉参加国の承認で発効する。国連での承認はすでに得られており、交渉を主導した米国で承認されれば合意は成立する。期限は今月中旬だが、米議会では、合意に反対する共和党とともに、民主党議員の一部も反対しており、上下両院で不承認の見込み。だが、オバマ大統領は拒否権の発動を表明しており、議会で大統領拒否権を覆す3分の2以上の票を得ることは困難とみられている。
◆ワッハーブ派を批判
任期1年4カ月を残すオバマ氏にとっては歴史に名を残す大きな機会だ。ロシアへの「リセット外交」の失敗、「イスラム国」の出現、イラク、イエメン、リビア、シリアでの混乱など見るべき外交実績のないオバマ氏にとっては、最大の「レガシー」となり得るもの。そのため、拒否権をちらつかせてまで承認させたいのだろう。
合意直後の米世論調査で過半数が反対した核合意であり、イランに核武装への道を開くという懸念も強い。
フリードマン氏は、厳格派ワッハーブ派を奉じるサウジアラビアこそ過激派イスラムの提供者だとして、イラン脅威論に否定的だ。確かに「(同時多発テロの)ハイジャック犯19人のうち15人はサウジ人」であり、サウジ国内で宗教的不寛容、女性差別などワッハーブ派の厳格なイスラムの適用による問題は多く指摘されている。サウジから世界のイスラム過激派へ資金が提供されているという報道も過去何度もなされている。
しかし、サウジの脅威がイランの核開発の脅威を減じることはない。
イランは現在激しい経済制裁を受け、国際的に孤立している。オバマ氏は合意によって、孤立を脱し各国との交流が始まれば、穏健化が期待できるとしている。このような見方は、イランに対してだけでなく、オバマ外交全般に見られるものだが、結果は現状を見れば明らかだろう。
フリードマン氏も、制裁解除後のイランの穏健化への期待を核合意支持の根拠としているが、大量の資金と兵器を手に入れたイランが、15年後に世界の脅威ではない国になっているという保証はどこにもない。イスラエルのネタニヤフ首相が「歴史的間違い」と合意を非難したのはそのためだ。イランが経済力、軍事力を増して、最初の脅威を受けるのはイスラエルだ。さらに核を保有することになれば、中東に軍拡の動きを招来することになりかねない。
◆合意反対のデイリー
ニューヨーク・デイリー・ニューズ紙(電子版2日付)は、合意によってイランを封じ込めることができるというオバマ氏の主張を「信用と希望に基づく」ものとして一蹴した。イランが変わる保証などどこにもないからだ。
同紙は、オバマ氏が2014年に「包括的で、持続的な対テロ戦略で(「イスラム国」の)力を削(そ)ぎ、最終的に壊滅させる」と語ったことを挙げて、核合意に関する「約束も同じく信用できない」とオバマ氏への不信感をあらわにした。
(本田隆文)





