国連事務総長の中国「抗日戦勝式典」出席問題を論じたのは産経だけ

◆中立性を損ねる潘氏

 「国連は中立であるべきだ。いたずらに特定の過去に焦点を当てるべきではない」

 菅(すが)義偉(よしひで)官房長官は先月31日の記者会見で、国連の潘(パン)基文(ギムン)事務総長が今日3日に北京で行われる「抗日戦争勝利70年記念式典」に出席することについて強い懸念と不快感を示したことを産経と読売(1日付)などの記事が伝えている。「国際社会の融和と発展の姿勢を強調することこそ、国連に求められているのではないか」と指摘したもので、潘氏の出席が「世界唯一の真に普遍的な機関」と自身で語ってきた、あるべき国連の中立性に疑義を生じさせているというのだ。

 その上で、読売は「韓国出身の潘氏の式典出席が、歴史問題などをめぐる中韓両国の立場を後押しし、日本との関係改善に水を差すのではないかと警戒」する日本政府の危惧を報じた。

 産経は日本政府内にある「『加盟国はいかなる国に対しても武力による威嚇もしくは武力の行使を慎まなければならない』とうたっている国連のトップが、軍事パレードに『のこのこと出掛ける』(外務省幹部)ことは、自己否定」との批判や、潘氏の抗日行事への出席のこだわりは「韓国の次期大統領選につなげる政治的パフォーマンス」との臆測に言及した。日本の懸念に「国際社会にとって過去から学び、前進することは非常に重要だ」とした潘氏の反論には、菅氏が会見で繰り返した冒頭の発言を伝えて記事を結んだのである。

 潘基文氏の中国の抗日戦勝式典への出席問題は国のトップが出席するのと違い、普遍中立を旨とする国連加盟190余国を代表する立場だけに、「軽率」の謗りを免れない。中国は今回の行事に、日本を含む世界約50カ国の首脳に招待状を送った。しかし、南シナ海などでの力ずくの現状変更を強行していることや国内の人権派弁護士らへの理不尽な弾圧などの問題を見過ごすことはできない。中国首脳部はEU各国トップに熱心に働きかけたが、日米欧各国トップは軒並み欠席。出席首脳で目立つのはクリミア武力併合などで欧米から経済制裁中で孤立するロシアと、あとは韓国や中国と関係の深い中央アジアの国々ぐらい。そんなところの行事に、潘氏がわざわざ出かけて行くのである。

 そのことに首を傾(かし)げないメディアがあるとしたら、そのメディアは鈍感かおかしいと見なければなるまい。まして菅官房長官が記者会見で強い懸念を示したのに、1日付の朝日、毎日には該当記事は見当たらなかった。

◆現状変更許容の愚行

 もっとも、この問題の第1報掲載は先月29日付で、この時は朝日も日本政府の懸念を報じた。国連は潘事務総長が北京での抗日戦勝行事に出席し、軍事パレードにも出席すると発表したことを受け、産経(第1面トップ記事)、読売(2面)、朝日(4面)などが、日本政府はニューヨークの外交ルートを通じて国連に「懸念」を伝えたというもの。朝日は「外務省幹部は、学生らの民主化運動を軍が弾圧した1989年の天安門事件を念頭に、『虐殺があった場所で軍がパレードするところに居合わせることになる』と指摘。『(出席した場合)国連が掲げる自由、人権、民主的という要素を体現しているのか』と不快感を示した」と報じたのである。

 この問題を社説に掲げたのは産経(主張・8月30日付)だけなのは残念である。産経は「中国が力による現状変更を目指す動きは、国際社会が結束して阻止すべき問題だ。にもかかわらず、国連がこれに無力であるどころか、許容することを意味するのではないか」と、潘氏の行動を批判。かねてから潘氏には中国への配慮が過剰との指摘があることに言及し「こうした行動を続けるようでは、国連への信頼が損なわれることになる」と警告した。返す刀で日本政府に対しても、国連に懸念を伝達するだけでは不十分で「国連が平和構築への責務を果たそうとしていないとの非難を正式に表明すべき」だと迫った。正論である。日本人も、そろそろ「国連を理想化し、正義の府とあがめる、『国連幻想』」(産經抄同31日付)から卒業すべきかもしれない。

◆朝日が全体主義批判

 朝日(社説・同30日付)は関連する「中国『戦勝』70年」をテーマに「(いまや中国は)他国からの侵略など想像しがたい。/それでもなお、人権より主権にこだわる習政権の姿勢は、それこそ70年前までの全体主義にも通じる統治ではないのか」と論じた。同感するところが多々あったことを言い添えたい。

(堀本和博)