安倍首相の戦後70年談話に河野・村山談話の継承を批判する新潮

◆“過剰な期待”の反動

 話題に事欠かない週となった。安倍晋三首相の「戦後70年談話」、五輪エンブレムパクリ疑惑のデザイナー佐野研二郎氏、近年になく“豊漁”の甲子園球児たち、果ては不倫が動機か?国際弁護士股間切断事件、等々、暑い夏をさらに暑苦しくしている。

 予想通りというべきか、週刊誌の安倍談話への評価は厳しい。週刊新潮(8月27日付)は「『70年談話』がぬえになった」と報じた。「ぬえ」とは「正体不明、得体の知れない人物や物事」を指す。談話が「正体不明」ということだ。

 安倍談話には最初から“過剰な期待”がかけられていた。保守系支持層からは、「戦後レジームから脱却」し、「謝罪外交に終止符を打」って、「自虐史観や東京裁判史観を汲んだとされる、河野談話や村山談話に縛られない独自の談話」が出されると思われていたのだ。

 しかし、ふたを開けてみれば、「歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないもの」として、河野・村山談話を継承する格好になっており、日本がはめ込まれた「戦争加害者」という立場は何も変わっていなかった。さらに、「侵略」「植民地支配」「痛切な反省」「心からのお詫び」の“4点セット”まで盛り込まれた。

 日本が戦争に突き進んでいった当時の国際情勢や日本が置かれていた国際政治環境から、「力の行使によって解決しようと試みた」“誤り”を認めつつ、裏読みをすれば、「日本は意図的に追い込まれて戦わざるを得なくなった」ということを暗示するのが精いっぱいだった。

◆読売の影響説を指摘

 その一方で、中国、韓国は「一定の理解」を示したと同誌は紹介する。反応にはそれぞれの政治的理由が色濃く反映されており、それはつまり状況が変われば、いつでも批判・攻撃の対象になりうる素地があるということだ。

 だが、どうして中途半端な談話となったのか。同誌は「読売の圧力に屈したんですよ」と「さる政府関係者」の言葉を紹介した。70年談話の作成に当たって有識者の意見を参考にするため、「21世紀構想懇談会」が立ち上げられ、「実質的に議論を取り仕切る座長代理」に北岡伸一氏が就いた。同誌は、北岡氏は「読売新聞の渡辺恒雄会長と非常に親しい関係といわれている」とし、談話は「渡辺氏の意向を受けた」ものだったと主張する。

 実際、読売新聞は7日付の社説で「首相も『侵略』を明確に認めよ」と訴えた。21世紀懇が報告書を出したタイミングで、首相に念押しした格好である。さらに、中曽根康弘元首相の寄稿を載せ、先の大戦を「やるべからざる戦争であり、誤った戦争」だったと強調させた。

 同誌が主張するように、首相談話に読売の主張がどれだけ影響したかは不明だが、談話に「侵略」が盛り込まれたのは事実だ。

 週刊文春(8月27日付)は別の角度から安倍談話に触れている。同誌は談話を「拍子抜け」とし、そうなった理由の一つとして、首相の体調問題があったと説明した。安倍首相が6月30日、会食中に「吐血」し、医師が呼ばれたというのだ。かつて安倍氏は「潰瘍性大腸炎」で第1次政権から降りた。「ほぼ完治した」とされている。「吐血」したとすれば、潰瘍性大腸炎ではなく、別の病気の可能性もあると同誌は推測する。

 さらに、首相は週末になると都内の高級ホテルのスパに通うが、「一回につき、三時間程度も滞在」しているという。長すぎるのだ。「安倍首相とも面識のある内科医」は同誌に、実際は「点滴を受けているのではないか」との見方を示した。

◆文春に首相が抗議文

 同誌が首相の「吐血」情報に食い下がるのは、「指導者の健康状態は一国の行方を大きく左右する」し、「健康への不安がひとつひとつの政策決定にマイナスの影響を及ぼす」からだ。

 今後、安保法案の成立、九月の総裁選、11月にも予想される日中韓首脳会談、そして、日韓首脳会談など、懸案、課題は目白押しだ。激務をこなし、的確な判断をしていくには何よりも健康でなければならない。

 一国の指導者の健康問題は「国家機密」ともいわれるが、週刊誌の報道が健康問題で首相を追い込んではならない。健康問題は内外の政治状況を大きく変える可能性もある。慎重に扱うべきだろう。案の定、同誌が「吐血」を報じるや否や安倍首相は20日に「事実無根」と発売元の文藝春秋社に撤回と訂正を求める抗議文を送ったのだが……。

(岩崎 哲)