「失われた20年」の教訓で97年度緊縮政策の失政を語らぬ日経社説
◆「政治」に苦言は尤も
あと2日で15日の終戦記念日を迎える。ちょうど戦後70年である。
今年は大きな節目の年として、新聞でも各種の特集記事を掲載し、70年を様々な角度から振り返っている。
社説でも同様で、いくつかの新聞で連載あるいは随時掲載という形で「戦後70年」ものを載せている。その中で特に気になったのが、3日付日経社説である。
この社説は「戦後70年の視角」というタイトルの付いた随時掲載のもので、「失われた20年」教訓に飛躍のとき、との見出しが付いている。
通常2本載せる掲載枠に1本だけの大社説で、文字通り、見出しの内容がまさしく、この社説のメッセージになっている。文中には小見出し「停滞続いた原因は何か」とあるように、その原因を列挙し、もう一つの小見出し「成功体験捨て成長探れ」でその答えを導き出している。
さて、「気になる」と言ったのは日経が取り上げた「停滞が続いた原因」である。
同紙が挙げたのは三つ。一つは「常に一時しのぎで切り抜け、根っこの問題を先送りしてきたこと」、つまり「既得権益にメスを入れることができず、岩盤を打ち砕けなかった」ことである。2番目が「政治のありよう」、3番目が「企業がグローバル化で後手に回りデジタル化の波にも乗り遅れたこと」である。
確かに、それぞれに停滞を招いた理由が、なくはない。特に「政治のありよう」は同紙が指摘するように、平成になってからの首相が今の安倍晋三氏までで16人もいて、小泉純一郎首相のあと民主党政権の野田佳彦首相までの6人は1年交代。「短命政権で政治のリーダーシップが期待できず、外交力も弱体化させた」(日経)からである。
◆構造改革に拘る論調
しかし、「既得権益にメス…」はどうか。同紙は、「その結果が1000兆円をこえる借金を抱えてしまった財政にあらわれている」としているが、いくら「自民党長期政権でつちかわれた政官業の三角形は決して完全に破壊されていない」からとはいえ、飛躍があり過ぎである。
「構造改革は中途半端なままだ」ということを強調したいがためなのだろうが、それが「1000兆円超の借金を抱えた財政」には、どうみてもすぐには結び付かない。
さらに、気になるというより怪訝(けげん)に思えるのは、もっと根本的な原因があるのに、同紙はそれを列挙しないのである。より正確に言うなら、同紙は「名目GDP(国内総生産)の最高が97年であること」を指摘し、それが「何よりもそれ(平成に入ってからの停滞期)を物語っている」と強調しながら、では何故、98年以降は名目GDPが97年より小さくなってしまったのか、その原因として97年に何があったのか、を明らかにしないのである。
97年に何があったのか。小欄でたびたび取り上げた橋本龍太郎政権による消費税増税を含む大緊縮政策である。消費税率3%から5%への引き上げと特別所得減税の打ち切り、公共投資のカットなど総額13兆円に及ぶ財政赤字削減策である。
◆増税緊縮で税収減少
財政が危機的状況で「再建は待ったなし」として、財務省(当時大蔵省)が主導し、日経をはじめ新聞、テレビなど大手マスコミが積極的に呼応して実施されたものである。が、その後の展開はというと、周知のごとく、景気の低迷とそれによる税収の減少、つまり、意図した狙いとは逆の財政事情の一段の悪化である。今の安倍政権が脱却を目指し必死に取り組んでいるデフレがここから始まったのである。
昨年4月の5%から8%への消費税増税に対しても、日経は財務省のスポークスマンよろしく積極的に支持し推進の論調を唱えた。
さすがに今回は、異次元金融緩和の効果もあり、円安・株高、企業収益の向上、2年連続の賃上げなどから税収が増えてはいるが、景気は増税以降、2期連続のマイナス成長からようやく脱しながらも力強さを欠き、今年4~6月期はまたマイナス成長になるというのが大方の予想である。はっきり言って「飛躍のとき」どころではないのである。
「失われた20年」の教訓の中に、消費税増税を含む大緊縮政策という失政を入れたくても入れられないということなのか。
(床井明男)