安保法制めぐり憲法学は国民守らないと指摘した「日曜討論」稲田氏
◆学者違憲見解で応酬
通常国会は24日だった会期を9月27日まで大幅延長した。安全保障関連法案の成立を期する政府・与党の決意は固いが、野党側は、廃案を目指す民主、共産、社民、対案を提出する維新の党、法案の充実・強化を求める次世代の党とで対応が分かれている。
この安保法案をめぐって21日のNHK「日曜討論」は、自民、公明の与党と5野党の政策責任者を招いて討論を進めたが、国会審議そのままに議論は噛(か)み合わない。政府が編み出す安保行政には憲法9条の桎梏(しっこく)があり、常に野党から「憲法違反」の非難が浴びせられてきた。
集団的自衛権一部行使容認の閣議決定を受けた今回の法案も同様だ。番組では、法案について4日の衆院憲法審査会で発言した憲法学者3人の違憲見解と9日に政府が示した合憲見解をめぐり、自民党政調会長の稲田朋美氏と民主党政調会長の細野豪志氏とで応酬があった。
稲田氏は、自衛権に唯一判断を示した砂川最高裁判決と自衛権をめぐる昭和47年(1972年)政府見解から「日本の存立が脅かされて、国民の生命、身体を守るためには自衛権を行使できるという点については何ら変わっていない。そういう意味においては今回の政府の見解、そして集団的自衛権の一部を行使することは憲法に違反しないと思う」と述べ、政府の合憲見解を支持した。
細野氏は「昭和47年見解は集団的自衛権の行使は認められないという結論に達している」と指摘するとともに、「憲法審査会での長谷部(恭男早稲田大学)教授の主張はしっかり耳を傾けるべきだと思う。自民党の参考人ですから」と述べ、違憲見解を支持。また、長谷部氏の発言に「今回出てきている安全保障法制全体が違憲だとおっしゃったに等しい。……今の自民党、公明党がやろうとしていることは日本の憲法学そのものを正面から否定するぐらいの大変なことだ」と、与党側を批判した。
◆自衛隊違憲の憲法学
これに稲田氏は、「憲法学界の教科書的な本に何て書いてあるのかというと自衛隊は憲法9条2項の(「保持しない」とした)戦力に当たる、すなわち違憲であると書いてある」と述べ、細野氏に自衛隊は違憲であるかと質問。細野氏は「自衛隊は違憲ではない」と答えた。続けて稲田氏は「最新版の芦部(信喜)さんの第6版(『憲法』・岩波書店)を読めば自衛隊は9条2項の戦力に当たると書いてある」と指摘し、国民の生命を守る責務は憲法学界ではなく政治にあると主張した。
これは、わが国の憲法と現実の乖離(かいり)を端的に示すやりとりだ。宮沢俊義の弟子の芦部信喜(故人)は憲法学に影響ある護憲派の代表格で、全国憲法研究会代表などを務めた。憲法学界の学者の多くは自衛隊に反対する護憲派を後押ししてきたが、その学説を独立国の安保政策に実際には当てはめることはできない。
また、細野氏が主張したような「日本の憲法学の正面からの否定」は、自衛隊発足、自衛隊違憲論の学説に則(のっと)って自衛隊解消を掲げた社会党が衰退した国政選挙の結果、今や9割に達する自衛隊支持の国民世論によって、既になされたと言えるだろう。
このプロセスで軍配が上がったのは、自衛隊はじめ安保政策の法制上の根拠をひねり出した政府(内閣法制局)の憲法解釈だ。これを集団的自衛権一部行使の容認へと変更したことに論争があり、反対の根拠にもされている。
◆変化指摘した次世代
野党の中で時代の変化に臨機応変な議論を求めたのは、次世代の党外交防衛調査会長の浜田和幸氏。「いまの憲法論争は国際情勢の変化を十分加味していない。憲法というのは生き物だから、時代時代、日本を取り巻く環境に応じて日本人の生命財産を守るのが目的だ」と述べ、宇宙空間、サイバー攻撃などを指摘し、「不都合な真実と向き合おうとすると今の憲法のもとでは十分に対応できないのは歴然としている」と訴え、国連憲章に認められている集団的自衛権にも「日本人を守る大局的観点で捉える議論が必要だ」と主張していた。
昭和47年政府見解当時は、今日ほどの国際化・情報化、IT革命やサイバー攻撃、自衛隊海外派遣、北朝鮮の核・ミサイル開発、中国の海洋進出や脅威増大など想定外だったに違いない。一国で平和を守れない時代の自衛措置に「個別的」「集団的」を峻別(しゅんべつ)するのは難しい。
しかしながら、変化に政治がどう対処するかよりも、学説や過去の政府見解に固執する議論が多過ぎる印象である。
(窪田伸雄)