香港選挙法案否決/民主社会と中国仕様の「選挙」に区別曖昧な朝日

◆メンツ潰された中国

 中国共産党政権の方針に従い香港政府が立法会(議会、定数70)に提出した次期(2017年)行政長官の選挙制度改革法案の採決が18日に行われ、民主派議員らの反対多数で否決、廃案となった。実際は可決でも否決でも、民主派排除の制度は変わらない中での不毛の選択の採決である。

 否決により「普通選挙」導入は先送りされ、任期5年ごとの17年の行政長官選挙は、12年に続き親中派が大多数を占める選挙委員会による間接選挙のままで行われる見通しとなった。昨年9~12月の「雨傘革命」と呼ばれる民主化を求めた大規模な街頭占拠デモに続き、法案が否決されたことで、共産党政権側の親中派と香港民主派の対立は一層の先鋭化が避けられず、香港社会の亀裂もさらに広がっていこう。

 この法案は17年の行政長官選挙から、有権者1人が1票の投票権を持つ「普通選挙」導入を決めたもので、昨年8月末に中国の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会が決定したのに従って香港政府が提出した。ところが、その中身は親中派が大多数を占める選挙委員会(1200)が立候補者を2~3人に選別する仕組みだった。このため事実上、民主派候補を排除して行う選挙制度となり、民主派が「ニセの普通選挙だ」と激しく抗議してきた。

 法案の可決には定数の3分の2(47議席)以上の賛成が必要で、当初は民主派からの切り崩しができず、親中派議員らの賛成票が40票余で反対を上回って否決される見通しだった。ところが採決の結果は賛成8、反対28と予想外の反対多数による否決となった。親中派のうち1人が反対に回った上に、全員のはずが8人を残し33人が採決直前に退席するミスがあったからである。

 否決という結果に変わりはないが、反対多数の否決となったことで中国政府はメンツを潰された形となった。香港メディアは中国政府の「激怒」を伝え、親中派議員の33人は地元紙・星島日報などに採決不参加の失態で謝罪広告を出すなどの騒ぎとなった。中国は「一国二制度」の名の下に香港の「高度な自治」を約束してきたが、「結局、看板倒れになるのか」(読売19日社説)と国際的不信を招くことになり、今後の対応によっては来年1月の台湾総統選挙や中台関係にも影響しそうだ。

◆「普通選挙」と呼べず

 この問題で、各紙論調(社説・主張)はそれぞれ中国に物言いしている。

 「議会が、中国の意向に沿って親中派長官しか選べない制度を拒否した意味は小さくない」と否決の意義を評価する産経(20日)は、法案による選挙の仕組みを「とても普通選挙とは呼べない」と最も強く批判。「恣意(しい)的な候補者選抜を許す制度は、『一国二制度』を骨抜きにする、明白な『国際公約』違反にほかならない」と断罪し、中国と香港政府に「『真の普通選挙』を実現する義務がある」と迫った。批判だけではない。「中国が都合良く香港の制度を曲げることは、やがて香港の衰退を招き、中国自身が困ることにもなろう」「まず、中国が民主派への譲歩を拒む姿勢を改めることが重要だ」とも諭す。理にかなった正論である。日経(20日)は「一国二制度」の約束を中国が「忘れるなら国際社会の信頼を失う」と警告。

 読売(19日)は、民主派の反対票投票に理解を示し「習近平政権の狙いが反中的な『民主派長官』の誕生の阻止であるのは、明白だ」と中国に手厳しい。その上で「深まる溝は香港の安定と繁栄を損ないかねない。そのツケはやがて中国にも回るはずだ」と説く。さらに民主派などと対話を進め「真の『普通選挙』実現へ、歩みを続けなければ、国際社会の幅広い信頼を得ることはできまい」と結んでいる。産経、読売、毎日は中国仕様の普通選挙を「普通選挙」とカッコ付きで表記し、民主派の主張する民主主義社会での普通選挙を「真の『普通選挙』」として区別したのは明察である。

◆突っ込み消える朝日

 この点が曖昧なのが朝日(20日)。「1人1票の普通選挙を導入するのはよかったが、候補者をあらかじめ制限する仕組みだったため、民主派議員が反対した」「1人1票が実現しても選択の幅は狭く、中国の眼鏡にかなった候補にお墨付きを与える役割しか果たせない」などと、批判もどこかよそ事のよう。安保関連法案批判などで示す鋭い突っ込みが消え、どこか間延びした分析調に変身するのが不思議である。

(堀本和博)