日露2プラス2で、日本の有利性を詳述した正論・木村汎氏の論考
◆対中国めぐり各解説
「海賊・サイバー対策で協力/日露、初の2プラス2協議開く」(小紙3日付第1面トップ記事見出し)
日本とロシア両政府がこの2日に初の外務・防衛閣僚協議(2プラス2)を開き、①自衛隊とロシア軍による海賊対策の共同訓練をソマリア沖・アデン湾で行う②サイバー安全保障を協議する③2プラス2を定例で開く――など合意した。夕刊のある読売、朝日、毎日などは2日付夕刊で、朝刊紙の産経、小紙は3日付でそれぞれ第1面で大きく、この第1報を伝えた。続く、背景をとらえた解説記事や論説は3日以降に掲載された。
そこで、解説含みの記事から。各紙とも、今回の日露接近の動きに、台頭する中国の存在を指摘する。「名指しこそ避けたものの、日露共通の脅威である中国をにらみ、両国の連携をアピールする狙い」(読売3日付)は明らかだからだ。
問題は、その中国対応における日露接近をどう考えるかである。まずは新たな動きを見守ろうとする読売、毎日、日経と、中国牽制(けんせい)であってもその日露の思惑は食い違うとやや警戒色や懸念をにじます朝日、産経、小紙とに割れた。もっとも、それは記事の見出し採りから判断するニュアンスの違いから言えることで、例えば前者の読売記事でも「日露の思惑のすれ違いもみられた」などの指摘もし、「日本は『同床異夢』の相手の出方を慎重に見極めながら協議を続けることになりそうだ」と記事は遺漏なく結んでいる。
各紙見出しを比較してみる。前者のそれは「中国にらみ 日露接近/進出をけん制」(読売)、「日露 戦略的関係へ一歩/日 『領土』進展に期待/露 中国偏重 脱却図る」(毎日・同)、「中国念頭 安保協力広く/海洋進出けん制」(日経)。対する後者は「日ロ、思惑食い違い/中国への牽制・北方領土問題」(朝日・同)、「したたか 露が主導/領土 難航する協議」(産経・同)、「中国警戒も 思惑にずれ/北方領土、ロシアなお強硬」(小紙・同)と警戒、懸念の色を浮き立たせているのだ。
◆論説も色分けが反映
日露2プラス2をめぐる各紙解説記事ににじむ重心の色分けは、そのまま論説にも反映して展開された。「『領土』への信頼を醸成したい」とする読売(社説3日付)は、協議は「日露が安全保障で緊密に連携するのは、中国への牽制という観点からも意義がある」と評価。「安倍首相が言うように、日露協力を多様な分野に広げる中で、領土交渉も進展させる必要がある。交渉の道のりは険しいが、2プラス2はその土台になるだろう」と肯定的である。
毎日(社説・同)は「日露の安全保障協力といっても、日米や中露関係を超えるものではなく、双方の隔たりは大きい」こと、北方領土問題でのロシアの強硬姿勢をも含んだ上で「経済だけでなく、安全保障も含めた協力を目指す試みを歓迎する」「日本は日露協力を深化させ、焦らずに領土問題の進展を図っていきたい」と前向き。「どこまでロシアと安全保障面で連携できるか、真剣に試してみる価値はある」という日経(社説・同)は「中国をけん制するとともに、日米同盟を離間する狙いもある。ロシアとの協力は、そんな思惑を見極めながら進める必要がある」と結んで慎重色も。
これらに対して、産経(主張・4日付)は「中国を牽制するうえで協議初開催は評価できる」としつつも「領土問題が解決へ動き出さない限り、2プラス2を重ねても日露関係の大きな進展は望めない。日本側はこの点をロシア側に徹底して認識させなければならない」と、何より領土問題を忘れるなとクギを刺した。この点では、珍しく朝日(社説・同)も強調した。「領土問題があるかぎり、日ロの間に不信は残り、安全保障分野で完全な形での協力を進めることも難しい」「ロシアは領土問題にも、真摯(しんし)に取り組むべきだ」と迫るのだが、“親中派”朝日の主張であるだけに深読みが必要だろう。
◆経済的な視点も重要
北方領土問題は「日露の大きな隔たりを埋めるには両首脳が信頼関係を強め、トップダウンによる解決を図るしかない」(小紙社説・同)のだが、日本は決して弱い立場にあるのではない。「日露のこのところの接近には経済的要因も」(産経・同)あり、指摘されるその有利性を考慮しての交渉について木村汎(ひろし)・北大名誉教授は産経・正論(4日付)で詳述している。極めて有益な論考で、ご一読をお勧めしたい。
(堀本和博)





