ISの前に米軍イラク追加派遣は「少な過ぎる」と警告するWSJ紙

◆オバマ大統領を非難

 オバマ米大統領は、イラク中西部アンバル州に米兵450人を新たに派遣する方針を決めた。過激派組織「イスラム国」(IS)が州都ラマディを制圧したことに対抗するための措置だ。イラク政府軍に戦術面の助言を与え、同州多数派、イスラム教スンニ派に戦いに加わるよう説得を試みるという。

 ラマディは首都バグダッドから100㌔ほどであり、ISの勢力拡大に米政府内でも衝撃が走った。この増派でもイラク駐留米軍は4000人足らずで、ISに対抗するには「不十分」(米紙USAトゥデー)との指摘が米国内で相次いでいる。

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)電子版は10日付社説で「オバマ大統領は10日、イラクにすでに駐留している3500人に450人の米軍顧問を追加することを命じることで、対IS戦略が成功していないことを完全に認めた」と主張、「これまで効果を上げてこなかった中途半端な漸増とほとんど変わらない」と非難した。

 イラク駐留米軍は2007年の17万人をピークに徐々に削減され、08年に米イラク間で交わされた「地位協定」をもとに、11年12月に米軍の全戦闘部隊がイラクから撤収した。地位協定はブッシュ前政権下で交わされたものだが、イラクへの米軍駐留に批判的だったオバマ大統領にとっても好都合だったはずだ。

◆空爆も効果上がらず

 オバマ大統領の主張する通り、イラク国内の治安はイラク自身が守るべきものだ。だが、その後のイラク国内の治安の悪化に対し、オバマ政権が十分な対応を取らなかったことも、イラク情勢悪化の一因とみるべきだろう。昨年からのISの台頭に対しても、国内からは地上軍の派遣などを求める声があったが、オバマ氏は、小規模な訓練、助言要員の派遣と空爆による地上のイラク軍の支援にとどめてきた。

 最近公表された米軍の調査結果では、空爆に出撃した米軍機の4機に3機は爆弾を投下せずに帰投している。地上の標的に関する情報不足によるものであることは明らかだ。さらに米軍は爆撃誘導員を派遣していない。米軍のイラクへの関与が効果を上げていないことはこれを見れば明らかだ。

 WSJは、ISの台頭を許した一因として、イラク軍の指導部の問題を挙げている。

 キーン退役大将はWSJで「(追加派遣は)質や量に関して、指導者の問題に対処していない」と指摘している。同紙は「イラク軍は有能で勇敢な指導者の不足に苦しんでいる。とりわけ戦術的レベルで指揮を執るものがいない」と現在のイラク軍の問題点を指摘した。

 また、米軍がイラクに提供する装備にも問題があるという。現在の米国からのイラクへの支援は、小火器、通信機器などにとどまり、重火器は提供していない。特にイラク北部やシリアでISと戦い、成果を挙げているクルド治安部隊は、重火器を必要としているという。

 だが、指導力が弱く、統制のとれないイラク軍に重火器を渡すことは、敵勢力に武器を奪われる可能性があり、危険だ。実際にラマディ陥落時には、イラク軍が大量の装備を残し退却し、IS戦闘員に奪われるということが起きている。

◆戦闘旅団派遣求める

 WSJは「これらの欠陥に対処するには、もっと強固な訓練プログラムが必要であることは明らかであり、450人の顧問派遣では少な過ぎる」と追加派遣の拡大を求めている。

 具体的には、「4000人程度の重武装した戦闘旅団」を派遣し、「訓練を監督するとともに、スンニ派部族らの救出、移動、保護を支援」すべきだとしている。

 さらに「オバマ氏の戦略の基本的な問題点」として、「米国はイラクでの戦争に戻らないと強く決意し、現在米国が戦っている戦争に勝つために必要なことを十分にしていない」ことを挙げている。現在のような「断続的な空爆と、特殊部隊の腰の引けた行動」ではISの進軍を止めることは難しい。

 オバマ氏は昨年、ISの破壊を宣言した。だが、このままでは「歪(ゆが)められたイスラム教のために進んで命を落とそうという若者をますます引きつける」だけだとWSJは警告を発している。

(本田隆文)