「骨太の方針」の政府骨子案にそろって歳出削減の強化を求める各紙

◆幅利かす財政再建論

 政府は、経済財政運営の基本方針「骨太の方針」の今月末の取りまとめに向け議論を本格化させている。

 10日の経済財政諮問会議に政府が提示した骨子案は、政策的な経費を税収などでどれだけ賄えているかを示す基礎的財政収支の赤字幅を、2015年度の対国内総生産(GDP)比3・3%から18年度に同1%程度へ引き下げる中間目標を盛り込んだ。自民党の財政再建特命委員会でも独自に財政再建計画案を作成し最終報告をまとめている。

 さて、政府の骨子案に対し、これまでに社説で論評を掲載したのは4紙。日付順に見出しを並べると、以下の通り。

 日経(12日付)「大胆な成長戦略と歳出削減から逃げるな」、読売(13日付)「実効性ある社会保障の抑制を」、産経(同)「規律緩めず成長と両立を」、朝日(14日付)「危機感はないのか」――。

 各紙にほぼ共通しているのは、歳出抑制の強化を求めている点である。

 骨子案は「経済再生なくして財政健全化なし」として、成長による税収増を財政健全化の柱にする方針を示す一方、歳出改革についても「聖域なく進める」と明記。特に社会保障費の抑制を重点分野に位置づけているが、「その具体策は明示されていない」(読売)からである。

 読売は、月末の骨太方針の閣議決定に向け、「さらに踏み込んだ議論を重ねる必要がある」と注文。産経も「成長頼みで財政規律が緩むようでは、とても信頼に足る計画とはいえない。政府には、実効性を伴った具体的な歳出改革案を示すよう、改めて求めたい」と強調するのである。

 産経はさらに、「財政再建に資するよう、成長戦略を確実に強化してほしい」と成長戦略に言及。日経も、人口減少が進み潜在成長率が1%未満とされる中、「実力よりかなり高い成長目標(中長期的に実質2%、名目3%を上回る経済成長率)を掲げて大幅な税収増を見込むのであれば、それに見合った大胆な成長戦略をまとめ、実行すべきではないか」と指摘するのである。

◆景気の勢いを削ぐな

 確かに、読売や日経が示すように、毎年1兆円近く増える社会保障費の抑制に向け、安価な後発医薬品の利用促進や、所得や資産の多い高齢者への医療費の自己負担増、基礎年金の減額などは尤(もっと)もであり進めていくべきであろう。

 しかし、デフレ脱却の途上にあり、しかも昨年度の消費税増税の悪影響からようやく立ち直りつつある中で、日経が主張する「大胆な歳出削減」はその規模にもよるが、景気回復の勢いを再び削(そ)ぐものになりかねない。

 諮問会議の議論を受け、骨子案に歳出抑制の目安となる目標が設定されなかったのも、そのためである。自民党の特命委が歳出抑制の目標設定を求める最終報告をまとめたことに、甘利明経済財政担当相が16日の会見で「将来の歳出規模を固定化することは手足を縛ることになる」と懸念を表明したのも道理である。

 先に示した各紙見出しでも想像つくように、骨子案(正確には、骨子案の前提となった諮問会議の議論)に、最も批判的なのが朝日である。

 「税収の伸びを大きく見込む。歳出への切り込みには及び腰。デフレからの完全脱却へ正念場を迎え、17年度に10%への消費増税を控えるとはいえ、姿勢の甘さが目につく」。特に歳出改革は、「税制改革では安倍政権は10%超への消費増税を早々に封印した。ならば、…いっそう重要になるはず」なのに、というわけである。

◆危機煽って財政悪化

 しかし、朝日も認めるように、「分野ごとの抑制・削減目標については、1997年の財政構造改革法、2006年の財政再建計画で挑戦したが、共に失敗に終わった。機械的な上限設定が経済の変動に合わなくなるなど、難点があった」からである。

 さらに言えば、財務省が大蔵省当時から財政危機を叫び、各紙が呼応して消費税増税や歳出削減を進めたため、経済を痛めて逆に税収を減らし財政を悪化させてきた事実。

 10日付日経1面トップは、昨年度の国の税収が2兆円超上振れしそうな状況を報じている。企業業績の好調で法人税収が1兆円以上、所得税収も賃上げや株式の配当増で1兆円弱増える見通しという。消費税増税で景気が腰折れしなかったら、税収はさらにどうなっていたか。各紙に問いたい。

(床井明男)