18歳投票権に権利ばかりで国防の義務の「世界標準」は書かない各紙
◆してくれること強調
ジョン・F・ケネディ米元大統領の就任演説で、最も有名なのは次の一節だろう。
「わが同胞、アメリカ国民よ。国家があなたに何をしてくれるかを問うのではなく、あなたが国家に対して何ができるかを自問してほしい」
ケネディが当選した1960年の米大統領選は初めてテレビ討論会が行われたことで知られる。共和党のニクソン候補は討論の中身ばかりに気をとられたが、ケネディはテレビ写りを見事に演出し、若者の支持を取り付けて競り勝った。演説の「わが同胞」はたぶんに若者向けだ。
この演説を思い出したのは、18歳から投票できる公職選挙法改正案が近く国会で可決、成立し、来夏の参院選から高校生の一部も「有権者」になるからだ。同案は自民、民主など主な与野党が共同提案し、新聞もこぞって賛成した。紙面は「投票権」という権利を強調し、「国家に何ができるか」についてはほとんど書かない。
毎日の「熱血!与良政談」(10日付夕刊)もそうで、与良正男専門編集委員は「18歳投票」をきっかけに教育費を下げさせようといった趣旨のことを述べている。確かに、わが国の教育機関への公的支出の割合は低く、18歳投票を契機に教育費論議が起こるのは好ましいが、「国家があなたに何をしてくれるか」を問うだけでいいのだろうか。
法案が国会に上程される前から各紙は18歳投票を論じてきた。産経は「おやこ新聞」(子供向け特集面=3月1日付)で、祖父と孫娘、愛猫「ウメ」の問答形式の解説を載せ、その中でウメに「今から『ウメ党』をつくって、18歳と19歳の人と若いネコにネコ缶を無料で配るニャ」と言わせている。これも、してくれる話だ。
◆諸外国「18歳」の経緯
朝日は、18歳投票は「教育がカギを握る」(3月12日付社説)とし、「中央教育審議会は次の高校の学習指導要領で、行動規範や社会に参画する力を身につける新科目を検討中だ。ルールに従うだけでなく、権利を行使し新しい社会をつくる人を育てたい」と、権利行使を強調する。
他紙も18歳以上が選挙権を持つ国が圧倒的に多いとし、「(法改正で)ようやく国際標準に並ぶことになる」(読売3月6日付社説)「遅ればせながら、世界標準の仲間入りすることを歓迎したい」(日経2月19日付)と評価し、「主権者教育」を強調している。
こんな具合に18歳投票をめぐって権利ばかりが飛び交ってきた。だが、なぜ18歳が国際標準となったのか、その背景を語ろうとしない。また権利には義務が伴うが、このことも取り上げない。本紙社説のみが「国民の義務と責任も教えよ」(6月1日付社説)と主張するだけだ。
米国の18歳投票は1960年代のベトナム戦争が起源だ。「18歳で徴兵されるのなら、選挙権もないとおかしい」との論議が起こり、18歳選挙権が導入された。欧州やアフリカなどの新興国も事情は同じだ。義務を抜きにした選挙権はなく、その最大の義務は実に国防なのだ。
高乗正臣・平成国際大学副学長は、世界各国の憲法はそれぞれの国民が自分たちの祖国を守る義務を定めているのが普通だと指摘している(産経「中高生のための国民の憲法講座 第91講」4月26日付)。
例えば、ドイツ基本法は「男子に対しては、満18歳から軍隊、連邦国境警備隊または民間防衛団における役務に従事する義務を課すことができる」(第12a条)と定め、永世中立を掲げるオーストリア憲法は「すべての男性の国民は、兵役義務を負う。女性の国民は、任意に連邦軍において軍人として役務を行うことができ、また、当該役務を止める権利を有する」(第9a条3)としている。
◆平和を作る義務は?
これが「世界標準」だが、なぜか各紙はこのことに触れず、権利だけを声高に叫んでいる。安保法制論議でも平和を作り出す義務について(とりわけ左派紙は)語ろうとしない。
冒頭のケネディ演説は「全世界の同士よ! アメリカが君らに何をしてくれるかを問うのではなく、人類の自由の為に共に何ができるかを考えてほしい」と続く。まるで今の日本人に問いかけているようではないか。
(増 記代司)