G7首脳宣言の温暖化対策で原発忌避しながら代案を示さない朝日

◆各紙とも総論は賛成

 ドイツ南部のエルマウで開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)が8日に、2日間の討議を終え首脳宣言を採択して閉幕した。宣言には自由と法の支配などの共通理念に一致団結することを明記。中国やロシアを念頭に、力による領土の現状変更の試みに「強く反対」すると批判した。また、温暖化対策では「世界全体で2050年までに10年比で40~70%の幅の上方で(温室効果ガスを)削減する」目標を盛り込み、12月の国際会議での合意を目指す強い決意を示したのである。

 G7閉幕を第1面トップで報じた翌9日朝刊各紙は、それぞれ次のように主見出しを立てた。「中露の『力による変更』非難」(産経)、「中ロの領土変更批判」(日経)、「南シナ海、中国に自制要求」(小紙)、「東・南シナ海『緊張を懸念』」(読売)、「温室ガス/50年に40~70%減」(毎日)、「温室ガス40~70%減 一致」(朝日)。

 首脳宣言について、国際秩序の破壊・挑戦行為を進める中露を批判したことに焦点を置くか、地球温暖化対策でG7がG8時代も含めて初めて「基準年と数値を明確にした目標」を打ち出したことに置くかで分かれたが、記事ではどちらの内容も伝えている。

 一方の社説(主張)では産経、読売、毎日が9、10の両日に、前記二つのテーマごとに2本を掲載し、日経(10日)は拡大スペースで両テーマをまとめて論じた。朝日(10日)は中露批判はパスし温暖化対策だけをテーマに論じた(10日現在)。

 小欄では産経など前記5紙のG7温暖化対策の論評をウォッチしたい。

 G7首脳宣言が示した温室効果ガスの排出削減目標は、世界全体の二酸化炭素(CО2)などの排出量を2050年までに、対10年比で最大70%削減するというもの。これは産業革命前に比べ、このままだと4・8度増となる平均気温の上昇を2度未満に抑制することを目指すのである。年末にはパリで国際社会が温暖化対策に取り組む国連気候変動枠組み条約の第21回締約国会議(CОP21)が控えている。

 首脳宣言については、温暖化防止に「G7として一歩踏み込んだのは評価できよう」(日経)、「先進諸国として、最低限の責任ある態度を示したといえる」(朝日)、「先進国が足並みをそろえ、パリでの合意を主導する姿勢を示したことは評価できる」(毎日)、「新たな枠組みに合意することへの強い決意も明記された」(読売)と各紙とも肯定的に評価した。例により総論オーケー。問題はそれからの各論、具体策である。

◆原発活用説く産・読

 安倍晋三首相は日本の目標を、30年度までに13年度比で26%削減を表明した。この数字に対して読売は「他の先進国の目標と比べても、遜色のない数字」としたが、朝日は「基準年をずらして排出削減率を高く見せかけるごまかし」だと逆の断定をして批判した。しかし、朝日の主張は毎日のように「EUには1人当たり排出量で劣り、米国より毎年の削減比率は緩やかだ」と、比較材料を示したものでなく説得性に欠けるのである。いずれにせよ「日本の目標達成は容易ではない」(毎日、読売)。

 ではどうするのか。その具体的な対策で読売は「ほとんどの照明をLED(発光ダイオード)に転換する。ハイブリッド車や電気自動車など、エコカーの普及率を5割まで高める」ことを求めた上で「原発の再稼働と新増設も欠かせない」ことにも触れた。

 産経は原発の活用について、さらに踏み込んだ主張を展開した。太陽光や風力発電をこれ以上増やすのは技術面、電気料金面から無理だから「安全性を増した原子力発電の比率を高めていくしかないだろう。原発は経済成長と温暖化対策を両立させ得る現実的な手段」だと訴える。さらに国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が昨年出した最新報告書で、原子力などの比率を今の数倍に引き上げることが必要としたことを根拠に「原子力を忌避しない理性が、温暖化問題解決への扉を開く」としたのである。

◆思考停止に陥る朝毎

 こうした具体論に対して、毎日は原発には言及しないで「省エネ対策の強化や再生可能エネルギーの導入拡大に努める」ことを説くだけ。朝日も「原発に回帰する一方で再生可能エネルギー導入を制限しようとする日本政府の姿勢は心配」「エネルギー消費と化石燃料を減らす脱炭素化社会の実現」などと、各論に入ると相変わらずの具体策や代案のないお題目だけで思考停止、お粗末に陥るのである。

(堀本和博)