本紙を除き14年度マイナス成長と消費税増税に論評がない掲載3紙
◆個人消費拡大訴える
先月20日に発表された2015年1~3月期の実質国内総生産(GDP)は、前期比0・6%増、年率換算で2・4%増と、2四半期連続のプラス成長になった。
翌21日付社説で論評を掲載した読売、産経、日経の3紙はいずれも、これを「個人消費が3期連続で伸びた。設備投資と住宅投資も4期ぶりに増加に転じた。民間の内需がそろって復調したのは心強い」(読売)などと評価した。
ただ、昨年4月の消費税増税後に急減した消費の「その後の回復は依然として緩やか」(同)であり、ようやく上向いた設備投資も「勢いは緩慢」(同)などとして、「本格的な経済再生につなげ」(産経)る必要性を強調。
そのためには、GDPの約6割を占める個人消費の「さらなる喚起」(産経)がカギを握るとして、企業に対しては「賃上げや投資を通じた…積極的な経営も欠かせない」(同)と促し、政府にはそうした企業への、規制緩和策や税制改正など事業機会の拡大につながる具体策を急ぐよう、「環境を整える責任」(日経)を訴えた。3紙とも大意はほぼ同じである。
確かにその通りと言え、結論として、各紙が社説の見出しに取ったように、「攻める企業の背中を押そう」(読売)、「民需主導の歩みを確かに」(産経)、「好循環促し中長期の成長基盤を固めたい」(日経)というのは、尤(もっと)もな主張である。
ただ、15年1~3月期GDPが発表になったということは同時に、14年度としてのGDPも明らかになったわけである。ニュース記事としては、実質で前年度比1・0%減のマイナス成長だったことを報じてはいるが、社説での論評は3紙とも、1行の言及もない。これは、どういう訳なのであろうか。
◆大震災以上の悪影響
年度としてのマイナス成長は5年ぶりで、東日本大震災のあった11年度(プラス0・4%)よりも悪かったのである。原因は、周知の通り、4月からの消費税増税である。こうした年度のマイナス成長を中心に論評したのは、本紙1紙(22日付)だけ。
何とも寂しい限りである。というより、それで良いのかという疑念が湧く。それというのも、現在、安倍政権にとって重要な経済課題である経済再生と財政再建に対して、消費税増税が少なからぬ影響を与えており、17年4月からの再増税もその恐れが十分に予想されるからである。
14年度の税収実績は7月に発表されるため明確なことは言えないが、財務省が1日に発表した同年度の所得税収(4月までに納税された分)は17兆円程度と、13年ぶりの高水準になることが確実になった。
所得税は給与や利子、配当、株式譲渡などの所得にかかる税。春闘での賃上げを受けた給与所得の伸びや、株高を受けた配当収入の増加によって、税収が大きく増えたということである。
主要税目としては、税率アップで税収が確実に増える消費税はともかく、法人税がどれくらい増加するかである。
14年度は実質GDPがマイナス成長にもかかわらず税収が増えているのは、名目GDPがプラス(1・4%増)だったからである。
◆税収8兆円自然増も
ここで当然の如く浮かぶ疑問は、もし消費税増税がなかったら各税収はどうだったのか、より端的に言えば、「消費増税は必要だったのか」(本紙社説見出し)ということである。
もちろん、消費税増税を控えた駆け込み需要とその反動減があるから、前年度と均すなどの調整は必要だが、増税で景気を腰折れさせなければ、消費税収はそう増えないものの、所得税や法人税は現状以上のかなりの増加が見込めたのではないか。本紙が「(消費)税率3%アップ分の税収約8兆円が自然増収で得られた可能性は十分考えられる」としたのも頷(うなず)ける。
本紙はさらに、補正予算での景気対策もなしで済んだはずであるとして、財務省に対し、「税収動向の分析検証を求め、17年4月予定の再増税が必要なのか、政府に再考を促したい」としたが、同感である。
社説掲載3紙のうち、最近の日本経済に関する社説で景気重視を常に説いている読売に、こうした指摘がないのは残念である。
(床井明男)





