左派知識人の「憲法研究会」草案を日本国憲法の下地と歪曲した朝毎

◆改憲を公約した政権

 憲法記念日の3日、護憲派新聞の社説タイトルは「上からの改憲をはね返す」(朝日)、「国民が主導権を握ろう」(毎日)というものだった。いずれも安倍晋三政権や自民党の改憲の取り組みを「上から」と断じ、国民不在であるかのように論じている。

 こういう捉え方は憲法から見てどうだろうか。憲法は前文の冒頭に「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」と言うように議会制民主制を基本とする。当然、選挙で選ばれた安倍政権は国民の負託に応えねばならない。総選挙で自民党は自主憲法制定を公約に掲げたのだから、政治日程に乗せようと努めるのは当たり前で、それを「上から」と批判するのは筋違いだ。

 護憲紙は「自主憲法」という表現も嫌悪するが、それは現行憲法を金科玉条とするので自主でなかった、つまり占領軍による「押し付け憲法」と呼ばれたくないからだろう。

 朝日社説は「GHQ案には西欧の人権思想だけでなく、明治の自由民権運動での様々な民間草案や、その思想を昭和に受け継いだ在野の『憲法研究会』の案など国内における下地もあった」(朝日)と、押し付けを否定する。

 毎日も3日付に「『押し付け』薄い論拠」との特集を組み、その論拠として朝日と同様、「憲法研究会」を持ち出し、同会が1945年12月に発表した「憲法草案要綱」を現行憲法の“元原稿”であったかのように書いている。

◆社共統一戦線の護憲

 こうした擁護論もおかしい。いくら下地があっても、国際法は占領下の憲法制定を容認しない(ハーグ陸戦条約=1907年)。それで、例えばフランス憲法は「いかなる改正手続きも、領土の保全に侵害が加えられている時には開始されない。また続行されない」と明記している。

 改正の中身を問わない。素晴らしい案でもフランス人が言いだしても、主権がない占領下には改定しない。それが国際社会の常識だ。だから現行憲法は「押し付け憲法」に間違いない。

 と言っても、安倍首相は「押し付け」だから無効と言っているわけではない。制定過程の事実を指摘し、今度は自主的に憲法を制定しようと述べただけだ。横浜で護憲派集会では「すべて安倍のせい」の大合唱だったそうだが(産経4日付)、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いで、制定過程まで歪曲(わいきょく)するのはいただけない。

 それにしても両紙が憲法研究会を持ち出したのは馬脚を現したとしか思えない。「上からの改憲をはね返す」とか「国民が主導権を握ろう」とか言うのは、実は憲法制定過程で共産党が掲げたスローガンに酷似している。

 同党は45年11月、行動綱領に「天下り憲法廃止と人民による民主憲法の制定」を掲げ、憲法制定の主導権を握ろうとした。朝・毎はそれと同じことを言っている。当時の共産党は「天皇制打倒・人民共和政府の樹立」も主張し、天皇制の存置を認める社会党と対立。このため統一戦線が築けなかった。

 この天皇制の認識の食い違いを是正し、社・共の橋渡しを目指したのが、党外の左派知識人らの憲法研究会にほかならなかった。「憲法草案要綱」はそのために作成された。歴史学者の松尾尊PR氏によれば、同会自体が「統一戦線的グループ」で、カナダからGHQに派遣されていたE・H・ノーマンが関わったという(『週刊朝日百科 日本の歴史123』=「民主戦線と新憲法 憲法研究会の活動」)。

◆共産化する一里塚に

 ノーマンは米共産党系の太平洋問題調査会で活動していた歴史学者で、40年にカナダ公使館員として来日した折には羽仁五郎ら左翼学者らと親交を結び、GHQで憲法草案作りに携わった。後に米国でマッカーシー旋風が吹き荒れたとき、共産党員だと“暴露”され、57年に自殺している。

 松尾氏は「憲法研究会の憲法構想の歴史的意義は、それがGHQ案に生かされただけでなく、社・共を中心とする統一戦線結成のかなめとなったという点に求められる」と述べている。

 まさに現行憲法はわが国を共産化する一里塚だった。だから左翼はとりつかれたように護憲を叫ぶ。朝日と毎日はこれを承知で、憲法研究会を持ち出したなら、革命のための護憲新聞と言うほかない。

(増 記代司)