NHK「クロ現」報告/「やらせ」否定の調査委をずばり断罪した産経

◆看板番組に4紙社説

 「やらせ」疑惑が告発されていたNHKの看板番組「クローズアップ現代」(クロ現)について、同局の調査委員会は4月28日に「過剰な演出や視聴者に誤解を与える編集が行われた」とする一方で、同局解釈の「事実の捏造(ねつぞう)につながる」とする「やらせ」はなかったという最終報告書を公表した。報告を受け、NHKは記者を停職3カ月とするなど関係者15人を懲戒処分し、籾井勝人(もみいかつと)会長ら役員4人は一部報酬の自主返納を申し出た。

 問題の番組は、昨年5月14日放映の「追跡“出家詐欺”~狙われる宗教法人~」。週刊文春(今年3月26日号)が番組でブローカーとして登場した人物の証言などをもとに「やらせ」疑惑を指摘したのである。

 番組は、多重債務者が出家して戸籍名を変え、融資金をだまし取る「出家詐欺」の手口を扱った。その中で「やらせ」と指摘されたのは、多重債務者がブローカーを訪ね、やりとりする現場を向かいのビルから隠し撮り風に撮影したシーンなどである。

 NHK報告書では、実はこの現場には記者も同席していて、相談内容を補足する注文をつけていた。債務者は記者と旧知の仲で、過去にも「NHKスペシャル」など複数の番組に匿名で出演していた。それが、今回の番組では記者が初対面のようにインタビューする場面もあったのである。これらを「過剰な演出」や「誤解を与える編集」と認めながら、やらせを否定した。また「ブローカー」と報じられた男性がそれを否定した証言については、関係者の証言が食い違ったままの灰色決着である。

 クロ現番組は「やらせ」なのか、「やらせ」とまでは言えないとした報告書の評価が妥当なのか。この問題を社説(主張)で論じたのは、毎日(1日)、読売(同)、小紙(9日)、産経(6日)の4紙である。

◆「信頼裏切る」と読売

 毎日は最終報告を「やらせを否定した結論は分かりにくく、視聴者の理解が得られるか、大いに疑問」とした。報告書で外部委員が「故意に手を加えたり、データを改ざんしたりするなど、ありもしないことを事実のように作り上げること」などを「典型的なやらせとした」ことから、今回は事実の捏造につながるやらせはなかったとの説明を紹介。しかし、担当記者と多重債務者の男性が8年前から知り合いで「出家詐欺の番組以外に二つの番組に匿名で出演していたことなど、想像もつかないのではないか」と迫るが、批判もここまでで終わったのでは何とも中途半端でいただけない。

 読売は毎日と同様に、NHKが自局の放送ガイドラインで「事実の捏造につながる行為をやらせと定義」し、これを踏まえてやらせを否定したことを説明。その上で「だが、やらせの定義を狭くとらえ過ぎていないか。『事前に打ち合わせて自然な振る舞いらしく行わせる』というのが、やらせの一般的な意味だ」とNHKのやらせ定義に反論。「今回の行為は演出の範囲を逸脱し、やらせがあったと批判されても仕方あるまい」と指摘し、「視聴者の信頼を裏切る行為と言うほかない」と批判したのである。

 小紙も、外部委員が紹介した広辞苑の「事前に打ち合わせて自然な振る舞いらしく行わせること、また、その行為」という「やらせ」の定義を示し「これは記者の行動に当てはまるのではないか。『捏造でなければやらせではない』という結論は短絡的」と批判。報告が「なぜ記者が過剰演出を行ったかを解明していないことも物足りない。……『再現シーン』などを用いる方法もあったはず」と第三者委によらない調査の甘さにも言及した。

◆BPOで厳しく審査

 最も厳しい痛烈な批判を突きつけた産経は「不可解なのは、NHKが『やらせ』を否定したことである。報告書を読む限り、これはやらせ以外の何ものでもあるまい」と、前記3紙のややまわりくどい言い回しを排してずばり断罪。さらに「世間一般の通念ではやらせに該当しても、NHKの基準ではやらせに当たらない。そう言っているに等しい」と、やらせ否定を強弁する姿勢のNHKと調査委員会に猛省を迫った。正論である。

 この問題は8日に、放送倫理・番組向上機構(BPO)放送倫理検証委員会(川端和治委員長)が審議の対象にすることを決定している。川端委員長はすでに審議前に「放送倫理違反があるのはほぼ間違いない」と述べているのである。

(堀本和博)