政府の温室ガス削減目標に高過ぎ、低過ぎ、妥当など評価三分の各紙

◆「適切な判断」と読売

 政府が温室効果ガス排出量を、2030年度までに13年度比で26%削減する原案を公表した。今後、与党内での調整を経て目標を決定し、来月上旬にドイツで開催されるサミット(主要国首脳会議)で安倍晋三首相が表明する。

 原案が掲げた削減目標26%は高いか、低いか、それとも妥当なのか――。社説で論評した各紙の評価は、見事、三つに分かれた。

 「妥当」としたのは、読売(2日付)。これに、「諸外国に比べ見劣りしない最低限の水準は満たした」などとする日経(同)、本紙(4日付)も、これに入る。

 「高すぎる目標を危惧する」と懸念したのは、産経(4日付)。逆に、「意欲に欠ける」と批判したのは反原発の朝日(同)である(毎日、東京は論評なし)。

 原案が示した目標は、先に経済産業省が示した30年時点の最適な電源構成(ベストミックス)案、すなわち、火力56%程度、再生可能エネルギー22~24%、原子力20~22%などに基づき、さらに省エネルギー技術の普及予測を加味した数値である。

 読売が指摘するように、鳩山由紀夫元首相は09年に「20年に1990年比25%削減」を唐突に打ち出したが、政策的な裏付けが乏しく、批判を浴びたことを踏まえ、「実現可能性を重視しつつ、可能な限り高い数値を設定した」(同紙)ものと言える。

 新目標の内訳は、工場などの産業部門で二酸化炭素(CO2)削減率6・5%、オフィスや家庭部門は約4割、運輸部門は3割弱の削減目標である。産業部門の目標が一見、小さく思えがちだが、既に削減が相当程度進み余地が少なくなっているからで、「生産活動に悪影響を与えないよう配慮したのは、適切な判断である」(読売)と言える。

◆省エネを説いた日経

 日経は、省エネについて詳しく論評した。政府案は国内エネルギー消費を13%減らすが、国内消費の75%は家庭や工場、自動車など非電力部門の化石燃料使用によるもので、日経は「1970年代の石油危機と同程度の厳しい省エネに取り組む必要がある」と目標達成が決して容易でないことを強調する。

 ただ、同紙によると、古い工場設備やオフィスの改修などで省エネの余地はあるという。「経済合理性のある省エネ対策が資金調達力や情報の不足から、実現しない『省エネの壁』の克服が大きな政策課題だ」との同紙の指摘は、さすがに経済紙である。

 「あまりにも高く、極めて疑問だ」と強く批判した産経。その理由は、京都議定書の下で6%の削減を引き受けたが、「その達成に苦しみ続けたではないか」ということ。

 日本は京都議定書の前から省エネに取り組み、「米国などに比べると削減余地が少ない」「二酸化炭素を排出しない原子力発電が健在だった時期においても6%の達成が困難を極めた」(同紙)。目標の26%削減は、「再生可能エネルギーと省エネに頼む部分が大きい。そこに不安の種を宿す」というわけである。

 そして、同紙は「高コストの太陽光発電など、再生可能エネルギーが、原発の発電量をしのぐ電源構成では、中小企業や一般家庭に経済負担が長期にのしかかる」と大きな懸念を示すが、尤(もっと)もである。

 読売、日経、本紙は化石燃料の使用を減らすため、再生エネの取り組みとともに、CO2を排出しない原発の再稼働を求め、読売、本紙はさらに新増設の必要性を説いた。

 産経は今回、かねての持論である原発の再稼働、新増設に言及しなかった。同紙としては、むしろ、「排出削減の数値で肩を並べようとする発想が不適切」として、政府に対し「国際交渉の場で、日本のこれまでの真摯(しんし)な取り組みと原発の活用が思うに任せない現状をしっかり主張すべきである」と強調した。一つの見識である。

 同紙はさらに、各国の削減量の単純比較を超えた実効ある施策を進めたいとして、日本が着手した途上国への削減技術支援策・二国間クレジット制度(JCM)の輪を広げるべきだと提案するが、同感である。

◆コスト意識欠く朝日

 一方、政府案を「意欲に欠けている」と批判した朝日。産業部門の削減幅にも「あまりにも低すぎる」とし、専ら省エネの推進を説いたが、相変わらずコスト意識を欠いた一方的な論調である。

(床井明男)