イエメン軍事介入を「人道」批判する露・イランに反発するサウジ紙

◆フーシ派非難の世論

 中東イエメンで混乱が続いている。

 1990年に旧ソ連の崩壊を直接の契機として南北の統一を果たしたイエメンだが、南北間の経済格差や政府の腐敗、イスラム教スンニ派とシーア派間の宗派対立、「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」によるテロ、南部の分離独立運動など多くの問題を依然抱えている。

 その中でも、北部に拠点を持つシーア派の一派ザイド派のフーシ派が昨年から活動を活発化させ、国内に混乱を招いている。今年に入って事実上のクーデターを実行し、首都サヌアを支配下に置くなど勢力を拡大、これに危機感を持った周辺アラブ諸国がフーシ派排除へ軍事行動に出たことから、国際問題へと発展した。

 イランの影響力の及ぶレバノンのデーリー・スター紙は社説「イエメンの機会」で、反政府勢力の撤収と武装勢力への武器の禁輸を求める国連安保理決議が承認されたことを受けて「希望の光が見えてきた」と評価した。その一方で、「サウジアラビアなど湾岸諸国は交渉による解決を求めてきたが、フーシ派とサレハ(前大統領)は状況を読み違え、国際社会はほかの危機的状況や紛争の処理に忙しく、…『最強』の勢力が武力によって勝つことを許すはずだと考えた」とフーシ派を非難している。

 サウジなど「有志国」は3月26日にフーシ派への空爆を開始した。民間人の犠牲者も出ている空爆に対する非難が出ている。特に、ロシアとイランからだ。

◆イランの批判に反論

 それに対しサウジのアシャルク・アウサト紙のサルマン・アルドサリ編集長は、ロシア、イランなどが「人道上の理由」から空爆の停止を求めたことに対し、10日付のコラムで「フーシ派民兵がこの半年間、殺人を行ってきたけれども、これらの国々が、『決意の嵐』(空爆)作戦前にイエメンの人道状況に懸念を表明したことはまったくなかった」と主張、「人道」という言葉が自国の利益のために都合よく使われていると非難した。

 昨年からのフーシ派の攻勢の背後にイランがいるという指摘は多い。シーア派国家であるイランが、同じくシーア派のフーシ派を通じてイエメンへの影響力を強め、地中海とアラビア海を結ぶアデン湾から紅海への支配力を獲得しようとしたという見方もある。イランは否定するが、これまでイランが、イラク、シリア、レバノンでシーア派勢力に接近、支援し、軍事的、政治的影響力を獲得してきたことを考えれば、あり得ない話ではない。だが同時に、外部からの一方的なてこ入れが、内部にひずみを引き起こすことも忘れてはならない。

 イラクがその好例だ。多数派シーア派の政権をイランは支援、露骨なシーア派優遇が国内の不安定化を招いた。拒絶されたスンニ派勢力、旧フセイン政権の軍幹部らが「イスラム国」に合流しているという情報も出始めている。

 女性人権擁護団体のAHAファウンデーション(本部・米ニューヨーク)のステファニー・バリック事務局長はイスラエル紙ハーレツへの寄稿で「独裁的なサウジとイランは、イエメン支配のために奮闘しているのだろう。しかし、市民が求めているのは、米国の民主主義のように見える。米政府はイエメンを失敗国家から救い出すための交渉を支援すべきだ」と主張した。

 バリック氏は、イラク、アフガニスタンでの米国のテロ対策を引き合いに出しながら「イエメンの現状は、米政府の対テロ戦略の限界を露呈した」「現状は非常に複雑であり、政治・軍事的指針、民主化プロセス、経済開発の時間的枠組みは著しく異なる」と長期的な支援体制の確立が必要だと訴えた。

◆米国の「力」を求める

 2011年の「アラブの春」のうねりの中でイエメンでも、若者、女性らが主導した大規模なデモが発生した。「貧困、経済的機会の欠如、政治的抑圧、公共機関の怠慢、社会的疎外」の改善を求めたものだ。だが、民主化を求めた大衆の声は、国内の混乱の中でかき消された。バリック氏は、「米国は、テロ対策のためだけでなく、中東全体に強力なメッセージ『正義は力』を送るためにも、イエメンの人々に寄り添い、民主化要求を支援すべきだ」と結んでいる。

(本田隆文)