報ステ騒動を詳報した文春と官邸の「メディア操縦」に着目した新潮

◆脱線した古賀茂明氏

 久しぶりに、なんだかんだ言っても予定調和でまとめていたテレビ番組が、確信犯によるハプニングで、ぐだぐだになった「放送事故」を視(み)た。

 3月27日のテレビ朝日「報道ステーション」で、元経産省官僚でコメンテーターの古賀茂明氏がキャスターの古舘伊知郎氏の制止を振り切って、ニュースとは関係ない話をし、「陰で言わずに、直接、文句を言って来てほしい」と菅義偉官房長官を批判したのだ。

 その際、古賀氏は本来視聴者には見せない舞台裏のやり取りまで“暴露”した。「テレビ朝日の早河(洋)会長あるいは古舘プロジェクトの佐藤(孝)会長のご意向で今日が最後ということなんです」と、まるで官邸の圧力を受けたテレ朝幹部らによって自分は降板させられるのだ、という言いぶりだった。

 古舘氏に「今のお話は、私としては承服できません」と止められると、「私、全部(古舘氏とのやり取りを)録音させていただきましたので、そういう風に言われるのであれば、全部出させていただきます」と古舘氏を睨みつけた。

 古舘氏は、「それなら、こちらも」と応じたが、まったくの楽屋話である。当然、視聴者には何のことか分からない。

 こんな話題に週刊誌が飛びつかないはずがない。週刊文春(4月9日号)は、トップ記事で「内ゲバ全真相」の記事を載せた。公共の電波を使って内輪もめを晒(さら)した経緯は何だったのか。裏でどんなやり取りがあったのか。

◆「降板」「圧力」で臆測

 同誌によると、古賀氏は報ステの「女性チーフプロデューサー(CP)・M氏が「番組に連れてきた」そうだ。「古賀氏から様々な話を聞いて番組作りに生かしていたMは、左翼的な思想の部分でも共鳴し合ってベッタリの関係」だったという。

 同番組の反原発、反権力傾向は少なからず、CPのM氏が引っ張っていったもので、古賀氏はさらにそれに弾みをつけたという関係のようだ。そのM氏が人事異動となると聞いて、古賀氏は「官邸の圧力」と判断したわけ。

 さらに、自分がコメンテーターとして「3月で切られ」るのだと思い、その「主犯は佐藤会長だ、と被害妄想に陥ってしまったようなんです」とテレ朝関係者は語っている。27日の報ステで古舘氏は、「これからも」と今後の出演に含みを持たせていたが、真相はどうなのか分からない。

 古賀氏について同誌は、「大物に近づいては訣別」し、「自分の言うとおりにするのが理想」と相手に考えを押し付ける傾向がある、と関係者の話を伝えている。思い込みが強いようだ。それは週刊ポスト(2月27日号)に「古舘を支えたプロデューサー“更迭”か」の記事を「古賀さんがリークして書かせた」(報ステ関係者)ことにも表れている。

 しかし、「『官邸の圧力でMが降板することになった』という壮大なストーリー。一見もっともらしいのですが、いつ、どこで誰がどのように圧力をかけたのか裏付けがないんです」(同)というのである。

◆記者の矜持説く新潮

 一方、この騒動そのものではなく、そこから透けて見えてくる官邸の「メディア操縦」に焦点を当てたのが週刊新潮(4月9日号)だ。「長期政権が視野に入ってきた安倍官邸に慢心はありはしないか……」という視点で、いかにも同誌らしい切り口である。

 安倍政府がいかに熱心にメディア対策をやっているか。「上智大学文学部新聞学科の田島泰彦教授」が同誌に語ったところによると、「首相とメディア人との会食」回数が、「民主党政権時代の総理3人の総計の既に4倍に達している」という。

 それが奏功してか、「メディアの人事にも影響力をもっている」とまで言われる現状だ。結果、「政府与党とメディアの間の、緊張感のなさ」(民放記者)、「長いものに巻かれている印象」(田島教授)が蔓延(まんえん)している。

 同誌はここで官邸のメディア対策自体を批判せず、「権力とメディアの関係は多分に記者の矜持(きょうじ)の問題と言えよう」としており、これは評価したい。安倍政権が安定し長期化すればするほど、健全なメディアの存在が国民にも政府にも必要となってくる。

(岩崎 哲)