イスラエル選挙で強硬派勝利に警戒表したエルサレム・ポストなど

◆右派リクードが勝利

 イスラエルの総選挙が3月17日に行われ、右派の現与党リクードが勝利した。投票直前まで中道左派労働党を中核とする統一会派「シオニスト連合」が勝利するとみられていたが、予想を覆し、リクードが30議席を獲得し第1党に、シオニスト連合は24議席にとどまった。

 リクードの苦戦が伝えられたのは、ネタニヤフ政権下の景気の悪化だ。とりわけ住宅価格の高騰が野党の追い風になると予想されていた。

 ネタニヤフ氏は、得意の安全保障問題に選挙戦を集中させた。勝因は投票直前にとった対パレスチナ強硬姿勢だろう。パレスチナとの「2国家共存」への支持を撤回、さらに、人口の2割を占めるアラブ人が「投票所に大挙して押し寄せ…イスラエル国民の本当の意思をゆがめ」ようとしていると訴えたのだ。

 この警告にイスラエル国民は敏感に反応し、経済問題は脇に押しやられた。

 ネタニヤフ首相は選挙に勝利したものの、内外から強い批判にさらされた。国内の左派系紙は強く反発、右派系紙を含む主要紙も、リクードの大勝を警戒するように、中道左派シオニスト連合との大連立による穏健政権の誕生に期待を表明した。

 同国最大の日刊紙「イディオト・アハロノト」は「古い時代の夜明け」「国民の半分にとって、腹への一撃のような結果」とネタニヤフ首相をこき下ろした。

◆首相発言に非難集中

 右派寄りの論調を取ることの多いエルサレム・ポスト紙も、左右の大連立を求める一方で、「隣人とのつかみどころのない和平への探求再開への…新たな攻撃だ」と非難した。

 また、最大の同盟国米国では、イラン核交渉などをめぐって米国との関係が最悪の状態になっていることもあり、関心は高かったが、いずれも右派政権の誕生に警戒を表明するとともに、ネタニヤフ首相の発言に非難が集中した。

 ロサンゼルス・タイムズ紙電子版は社説で「ネタニヤフ氏は最悪の方法で権力を維持した」と強く非難した。

 ワシントン・ポスト紙電子版(社説)も「イスラエルは依然として強力な親米国だ。だが、ネタニヤフ氏は、イスラエルの指導者が米大統領に反対する選挙運動を行うことができ、なおかつ再選を勝ち取ることができることを証明した。これは、米イスラエル関係にとっても、オバマ氏の中東での目標達成にとってもいい兆候ではない」とリクードの勝利に警鐘を鳴らした。

 これは日本の各紙も同様だ。

 産経新聞は3月31日付社説で「パレスチナ和平交渉の停滞についてネタニヤフ氏に厳しい目が注がれてきたことを忘れてはならない」とくぎを刺し、朝日新聞も選挙前の社説で、ネタニヤフ氏の米議会での演説について「危うい挑発行動を控え、米政府と真摯に向き合い、議論を深めるべきだ」と強硬姿勢を非難した。

 だが、ポスト紙が指摘したように、同盟国米国との関係を損ねてでもイスラエル国民がネタニヤフ政権を支持したのはなぜなのか。

◆皮膚感覚伝える毎日

 毎日新聞3月24日付に興味深いコラムが載っていた。同紙エルサレム支局の大治朋子氏のものだ。

 「直前に首相が強調したパレスチナ問題が市民の脅威意識のツボを刺激したのではないかと思う」と勝因を分析したうえで、「『対話路線のほうが和平への近道ではないか』と言いたくもなるが、『遠くの脅威』ではなく『隣人』との話だからこそ強硬姿勢が求められる側面がある」と脅威に対する現地の「皮膚感覚」に触れている。

 西にユダヤ教徒、東にパレスチナ人が住むエルサレム。かつてヨルダン・イスラエル国境だった通り一つ渡ると景色は一変する。両者が互いに行きかう姿はあまり見られない。

 ガザ地区からは多い時は1年に1千発以上のミサイルがイスラエル領に飛来する。ほとんどは無人の砂漠に落下するが、ミサイルを探知するたび警報が出され、住民は避難し、時折、負傷者、死者が出る。手製のミサイルは無誘導で精度も低く、どこに飛んでいくのか分からない。

 日々脅威にさらされているイスラエルの人々の答えが、ネタニヤフ氏だった。

 前言を翻し、パレスチナ独立を否定したこと、国内少数派への差別ともとられかねない発言をしたことは非難されるべきだ。だが、この現場の「皮膚感覚」を伝えることもメディアの重大な使命だ。

(本田隆文)