衆院「1票の格差」各判決に現実的アプローチで提言した読売や日経

◆具体策は乏しい朝毎

 「1票の格差」が最大2・13倍だった昨年12月衆院選の区割りをめぐり、弁護士グループが全295選挙区の選挙無効(やり直し)を求めた訴訟の高裁判決で、その判断が分かれている。提訴された17件の訴訟のうち先月27日までに14件が高裁・高裁支部で判決が出た。内訳は最多の「違憲状態」が9件、「合憲」4件、「違憲(選挙は有効)」1件である。

 残る3件は今月28日に判決予定の広島高裁岡山支部を最後に示され、その後、上告を受けて最高裁が年内にも統一判断を示すものとみられる。

 14件の高裁判決のうち、昨年の衆院選を初めて「違憲」としたのは先月25日の福岡高裁(高野裕裁判長)判決である。判決は「0増5減」して行われたこの選挙でも、最高裁が2011年判決で格差の主因だとした各都道府県「1人別枠方式」は解消されておらず、「憲法の投票価値の平等の要求に反する状態(違憲状態)」と判断。最高裁判決から選挙までの約3年8カ月間に、国会が速やかに是正しなかったことを「憲法上要求される合理的期間を経過しており、違憲」だとしたのである。

 是正に必要な期間は過ぎていないとして「違憲状態」とする東京高裁判決(先月25日)でも、滝沢泉裁判長は付言で、来年12月までに選挙制度が改革されずに次回選挙が行われれば「違法な選挙として効力」に問題と言及して、国会に1票の格差是正を急ぐよう求めたのである。

 これらの判決を受けて毎日(26日)、朝日(28日)、日経(同)、読売(29日)の4紙がこの問題をテーマに社説を掲載している。

 毎日、朝日はいつものパターンで、1票の格差解消の定数是正を求める、誰もが賛成する総論を言うだけの、現実的アプローチのない具体性に乏しい主張である。

◆国会を挑発する朝日

 毎日は「違憲」と「違憲状態」の判断は割れても「現状が投票権の平等の原則に反しているとの認識では一致している」と主張。16件の高裁・高裁支部判決のうち14件で「違憲」とされた12年選挙について、最高裁(13年11月)が国会の裁量権への配慮で「違憲状態」にとどめたことに言及し「裁量権にあぐらをかき、国会が怠慢を続けていいはずがない」と批判した。その通りではあるが、結論が衆院で調査会が検討中の「改革案を早急にまとめるべきだ」「党利党略を超えて議論を進めなければならない」では床の間の飾りでしかない。

 「いまの国会に、戦後の平和主義を転換したり、憲法を変える論議を提起したりする正統性があるといえるのか」。朝日はいきなり大上段から挑発的に迫る。昨年12月衆院選の1票の格差2・13倍を「ある人の投票の重みが、違う選挙区に住む人の半分にも満たないことを意味する」との説明は分かりやすい。その上で「そこまでの不平等を、有権者は耐え忍ぶしかないのか。国会の怠慢による不平等の放置は、民主主義に対する軽蔑以外の何ものでもない」と言い放つだけ。

 前述のように挑発的な言辞を散りばめ、是正策を検討する国会の鈍い動きへの批判は勇ましいが、結論が投票価値の平等を果たす責任を司法に求め「司法がきっちり言わないと、ないがしろにされがちな価値なのだ」では竜頭蛇尾と言うしかない。

◆「9増9減」案を評価

 一連の判決で「小選挙区の0増5減により、格差がいったんは最大1・98倍に縮小したことを評価」した東京高裁などの「合憲」判決にも言及した日経。「与野党は高裁判決に一喜一憂せず、国政の担い手として誰からも後ろ指を指されないよう是正を急」げと主張した。そして、具体的に衆院の有識者調査会の「小選挙区を9増9減して格差を最大1・598倍に縮小する試案」について「この案を捨てて議論を振り出しに戻せば早期の合意はますます難しくなる」と指摘。「格差が2倍未満に収まる是正を直ちに実施する。その後に抜本的な制度改革を」と現実的なアプローチを提案している。妥当な案である。

 読売も「9増9減」案に言及し「さらに議論を深めてもらいたい」と肯定的に評価した。その上で調査会が定数削減も議論していることについて「そもそも定数を減らせば、行政監視など国会の機能が低下しかねない。人口比で見れば、日本の議員数は欧州などより多くない」と指摘。調査会に「定数削減を切り離し、格差是正策をまとめるべきだ」と提言しているのである。

(堀本和博)