「福島の内部被ばくはほぼゼロ!」明かした新潮連載「がんの練習帳」

◆食料品に厳格な基準

 5年目の3・11を迎え、福島第一原発の事故による放射線の影響について、週刊新潮の連載「がんの練習帳」(中川恵一)の3月19、26日号で整理している。

 事故後からこの間、住民に対する被ばく量測定などが実施され、その量が非常に少ないことが分かってきた。特に、セシウムによる内部被ばくはゼロと言ってよいレベルにまで抑えられている。中川氏はその原因を「これは、政府が(過剰とも思えるほど)厳格な基準を作り、農家や流通業者がそれにしっかり従った結果と言えます」と断じている。

 そして「2012年4月に厚生労働省が導入した食品や飲料水中の放射性セシウムの基準値は、国際的にみても異様に厳しいものです」として具体例を挙げている。たとえば、乳児用食品や牛乳は1㌔あたり50ベクレル(アメリカの基準値の24分の1)、飲料水のキロ10ベクレル(アメリカの120分の1に相当)。

 現在、流通する食品すべては国のガイドラインに従ったサンプリング検査をパスしたもの。「福島産のお米(実は大変美味しいことで有名)にいたっては、サンプリングではなく、すべての玄米30㌔入りの袋に対して検査を行う『全量・全袋検査』を実施しています。(中略)福島産の肉牛も全数検査が行われ、昨年、基準値を超えたものはありませんでした」と。

 内部被ばくの経路は主に食物による経口摂取だが、それが極力抑えられて「福島の内部被ばくはほぼゼロ!」だと結論付けている。

 従来、国や自治体の危機管理対応は、防衛力を除き、自然災害や鳥インフルエンザなどの防疫、検疫体制、大規模な海洋汚染などの解消作業について実績があった。食品管理についてもその手際の良さを認めることができるだろう。

 もちろん危機管理は“お上”の通達だけで実現するものではない。今回も、福島の生産農家の血のにじむような努力があった。風評被害はやまず、福島県産の食品の売上高の暴落が続く中、それを克服しようと生産を続ける人たちの声が、筆者の耳にも入ってきた。農業、農家離れが進む中にあって、永い間、日本の基幹産業だった農業部門の底力を見せてくれた。危機管理は国・自治体、生産者、消費者の三位一体の協力でなされるものだ。

◆被ばく量は10㍉以下

 一方、連載では放射線の私たちの体に与える影響にも言及している。福島第一原発の事故で100㍉シーベルトの被ばくを受けた一般人はおらず、ほとんどの人は10㍉シーベルト以下だった。CTスキャンの一度の検査で7㍉シーベルトほどの線量を浴びるからその数量が比較できよう。「自然放射線が非常に高いインドのケララ州での調査でも、総線量が500㍉シーベルトを超える住民にも発がんリスクの増加は認められていません」という。

 その反面、放射線を浴びると、細胞の核の中にあるDNA(遺伝子)を傷つけ、それを修復しきれずに遺伝子に傷が残り、がん細胞化するということも知られる。これに対し中川氏は「天然の放射線は、生命が誕生した38億年前から存在していました。そして、自然放射線は徐々に少なくなっていきます(半分になる時間が半減期)から、太古の昔、生物の受ける被ばく量は今よりずっと高かったはずです。このため、放射線がDNAを切断しても、それを修復する仕組みが人間の体にも備わっています」と説明している。

 放射線は人間、自然界の発展にとって重要で、「放射線による遺伝子の突然変異が進化の原動力になってきたことも忘れてはいけません」と、その意義についても触れている。いたずらに放射線を忌避するのでなく、それをよく管理し、人間、地球のために役立てることが大切だというわけだ。正論である。

◆地球は原子力の恩恵

 反原発派の一人、中沢新一さんは、著書『日本の大転換』(集英社新書)で、原子力利用について「生態圏的自然の内部(筆者註・地球)には、まったく異質な『自然』(同註・原子力)が出現」「その『自然』は、太陽の内部や銀河宇宙にしか見出せない」と述べている。原子力の存在は太陽や天体の出来事で、地球には無縁だというのだ。

 そうではあるまい。地球を含む太陽系は核変換制御の行き届いた宇宙の一部であり、宇宙の原子力の恩恵を遍(あまね)く受けている。その力を地球上でも利用しようというのは当然のことだ。

(片上晴彦)