多党化で議論がますます薄まった統一地方選前のNHK「日曜討論」
◆10党は多すぎる印象
統一地方選が26日の10道府県知事選告示をもって開幕した。22日放送のNHK「日曜討論」は選挙に向けて「地方創生・原発・安保 10党に問う」と題した政治討論を行った。
10党の出席者は、自民党・茂木敏充選挙対策委員長、民主党・玄葉光一郎選挙対策委員長、公明党・斉藤哲夫選挙対策委員長、維新の党・柿沢未途政務調査会長、共産党・小池晃副委員長、次世代の党・松沢成文幹事長、社民党・又市征治幹事長、生活の党と山本太郎となかまたち・山本太郎共同代表、日本を元気にする会・山田太郎政策調査会長、新党改革・荒井広幸代表。
「10党に問う」ため、同番組は通常60分番組のところ90分に放送時間を延長していたが、10党からの出席者10人では単純計算でも1人10分、実際は司会者の発言やアシスタントによる討論テーマの解説もあるのでもっと短い。これを地方創生・原発・安保に分かれるテーマの各論ごとに語る発言時間は1人1分ぐらい。さすがに10人は多い。
こうなると、討論番組においても多党化の弊害を感じてしまう。議論が深まらず各党の政見を短く主張して時間切れとなる。分裂を重ね、別れて小さくなって増えた新党の地方選における存在感の薄さを思うと、公平を期する選挙がテーマとはいえ出席者が多くなった討論番組に首をかしげる視聴者もいるかもしれない。
◆NHKに「生活」抗議
もっともNHKにもそのような疑問があったらしく、2月1日の同番組の政治討論は自民、民主、公明、維新、共産、次世代、社民の7党だった。ところが、生活の党と山本太郎となかまたちの山本共同代表らは「日曜討論」に招かれなかったとしてNHKに抗議した。同党HPによるとNHK側は「放送機関の編集権」を理由としたという。
60分の討論番組をより深めたいテレビ局側がある程度出席者を絞るのは理解できるし、7党でも多いかもしれない。しかし、NHKは国会で予算承認を得る公共放送。納税者を代表する議員には弱い。また、大型選挙を前にして政党の代表者がテレビの政治討論に出演するのは事実上の選挙運動。22日放送の10党出席と放送時間30分延長の措置を見ると、2月の抗議は功を奏したようだ。
そのような経緯があって同番組に出席した山本氏であるが、「イラクに派遣された自衛隊員1万人が帰ってきて28人が自殺している」など、持ち前の反戦反核の左翼的な主張に沿った発言をしていた。果たして、生活の党出身の“なかまたち”も同列なのか。小沢一郎共同代表は、もとは「真正保守」を標榜(ひょうぼう)した自由党だった。かえって政党要件(国会議員5人以上)ありきの奇妙な合流を極立てたと言えよう。
ちなみに、米国はじめ帰還兵問題は自殺率や心的外傷後ストレス障害(PTSD)発症率が高くなるなど深刻なことは事実で、だからこそ、苛酷な活動に従事した隊員のケアには専門家らによって真剣に論議を深めてほしいところだ。
また、地方選をめぐる討論に登場する出席者が各党の国会議員となると、どうしても国政からの切り口になる。実際の地方選の争点は、道政、府政、県政、市政などをめぐるものだが、アベノミクスなど安倍政権の政策の是非といった与野党の論争になる。
◆格差に次世代の一案
この中で、格差問題にユニークな発案をしていたのが次世代・松沢氏で、「都市と地方の格差や大企業と中小企業の格差を一挙に解決する面白い政策がある。花粉症の撲滅だ」と切り出し、目的と方法がすぐに結びつかない発言によって耳目を引いた。
花粉症の原因となる杉の森林を伐採し自然林に変える公共事業で雇用を生み、ドイツの木材技術を利用して公共施設の木造化を唱え、杉の伐採により花粉症を減らすことで3600億円かかる医療費を減らすとともに、都市部の人が健康になって労働損失もなくなる――という提案だ。
これが絵に描いたように「一挙解決」となるかはともかく、地方活性化には知恵を絞った自由な施策があるべきことを示した。自民・茂木氏は地方が自由に使える一括交付金の活用や自治体のアイデアを強調していたが、前神奈川県知事として自治体首長経験のある松沢氏が一案で答えたような展開だった。
(窪田伸雄)