鳩山氏クリミア訪問に「北方領土」懸念し精神科医談話も載せた新潮

◆「宇宙人」とした文春

 ロシアが武力で併合したクリミアを鳩山由紀夫元首相が訪問した。日本を含め西側諸国がロシアを非難し、G7などによる制裁が行われている中、日本の元首相がロシアからビザを受けて訪問したのだ。それだけでなく、「クリミアがロシアの一部に戻ったことは、必然かつ肯定されることで、昨年の(ロシア編入)決定の正しさを証明している」とまで述べて、ロシアを喜ばせた。

 数々の奇行で知られ、「宇宙人」と自他ともに認める鳩山氏の行動には日本政府もお手上げのようだ。菅義偉官房長官は、「総理まで経験した政治家としてあまりにも軽率で、極めて遺憾だ」と怒りをあらわにし、古巣の民主党も、「一切関知するものではない」(枝野幸男幹事長)と突き放している。

 わが国には「首相経験者」の明確な規定がない。引退後も、知り得た国家機密に対する守秘義務を負うのは当然として、退いたとはいえ、国を代表する身分と自覚や、国益に反する行為禁止規定などが整備されていないのだ。

 週刊文春(3月26日号)では、「京都大学名誉教授の中西輝政氏」が、「先進国にはある『国家反逆罪』を適用すべき行動でしょう」と述べ、今回の鳩山氏の言動の重大さを想起させている。

 鳩山氏個人の信念から出たものだとしても、招待するロシア側からすれば、「日本の元首相」の言動として利用価値が大きいのは明々白々だ。普通なら、日本政府の政策・方針に齟齬(そご)を来すような言動は厳に慎むところだが、自由人ならぬ「宇宙人」にはそんな常識は通用しないらしい。

 「初代内閣安全保障室長の佐々淳行氏」は同誌で「肩書乱用」「日本に有害な外交活動」「警護を止め、すぐに監視下に置くべき」「政府は各国に対して、『日本は鳩山を元首相と認めない』という通達を出すべき」とまで述べている。相当な怒りだ。

 「宇宙に帰れ!」の見出しを付けた編集部の揶揄(やゆ)との温度差が気になるが。

◆領有権認める行為に

 一方、週刊新潮(3月26日号)の切り口は文春にはない視点があった。「大手紙のモスクワ特派員」は、「もし、クリミアで行われた住民投票を北方領土でやられたら、日本としては非常に困る」と指摘した。つまり、クリミアは住民投票でロシア編入を決めた。そのクリミアを「日本の元首相」が訪問すれば、住民投票・編入を「追認した」格好になるからだ。

 これを北方領土でやられたらどうなるだろうか。だから「日本政府は、(クリミア問題に)慎重姿勢で臨んできたのですが、鳩山氏の訪問は、それをぶち壊しかねないインパクトがあった」(同モスクワ特派員)というわけである。

 よもや、鳩山氏はロシアのビザで北方領土を訪問することはあるまい。査証発給という国の行為を認めることは、その地の領有権を認めることになる。それこそ「国賊」になる。

 さらに鳩山氏はクリミアで開いた記者会見で、唐突に「普天間飛行場の県内移設反対」をぶち上げた。そこでそれを言うか。第一、普天間移転をこじらせた張本人が鳩山氏ではないか。この発言を受けて、「パスポート没収」の声が上がったのに対し、「クリミアへの移住を考えなければ」と返した鳩山氏の頭の中を覗(のぞ)いてみたい。

◆元首相の地位が問題

 こうした鳩山氏の言動を新潮で「精神科医の片田珠美氏」が、「“スポットライト症候群”の特徴が指摘できます」としている。目立ちたい、注目されたい、構ってもらいたいのである。さらに、「カイン・コンプレクス」という耳慣れない言葉も片田氏は持ち出した。聖書の物語で、弟のアベルを兄カインが嫉妬から殺害した話だ。

 しかし、弟で国会議員の鳩山邦夫氏を嫉妬するというのはどうか。むしろ、学者から議員になり、首相にまでなって、その後も自由奔放にやっている兄の方がよほど“羨ましい”存在だと思うが。

 最も効果的なことは「無視」であるが、鳩山氏は、日本を貶(おとし)めたい国にとっては利用価値が大きい。なので勝手な行動を縛る意味からも、「首相経験者」の地位と処遇を実情に即して法律で定めることが急がれていると思うが……。 (岩崎 哲)