電力改革法案の意義を新エネ拡大に矮小化して安定供給語らぬ朝日

◆読売は安定供給懸念

 電力会社の送配電部門を別会社に移す「発送電分離」を2020年4月に実施することを盛り込んだ電気事業法改正案を、政府は閣議決定し、このほど国会に提出、今国会での成立を目指すという。都市ガスの小売りを17年をめどに全面自由化するガス事業法改正案も同様である。

 家庭向けも含めた電力の小売りは16年に全面自由化することが既に決まっており、新規参入企業に送配電網を開放する今回の「発送電分離」は、東日本大震災を契機に政府が進めた電力システム改革の総仕上げとなるもの。課題もありそうだが、工夫して何とか意図する狙いが全うできるよう進めてもらいたい。

 改正案について、社説で論評したのは4紙。日付順に並べると、4日付読売「安定供給体制の確保が前提だ」、5日付日経「課題点検し電力・ガス改革を成功に導け」、6日付朝日「『骨抜き』解釈を許すな」、10日付毎日「消費者本位を忘れるな」である。

 読売の「安定供給体制の確保…」は正にその通りで、電力システム改革には三つの大きな目的があり、第一がこの安定供給の確保なのである。第二は電気料金の最大限抑制、第三は需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大である。

 電力小売りの自由化や発送電分離は、そうした目的を実現するための具体的な方法論を示したものであり、読売の社説はその方法論に幾つかの懸念があることを示したものなのである。

 その懸念とは、発送電分離によって、「肝心の電力安定供給が揺らぐ懸念が拭えないこと」である。

 というのも、電力は需要に見合った供給量に調節しないと、停電や設備の故障につながるが、発電と送配電部門が別会社になれば、「きめ細かい需給調整がやりにくくなるのは避けられない」(読売)からである。

◆大停電が起きた米国

 現在、電力各社は刻々と増減する電力需要に応じて社内で緊密に連絡・指示し、発電量を調整しているが、これが新規参入企業を増やすために発送電分離となれば、どうなのかという点である。「実際、発送電分離で先行した米国などでは、発電会社と送配電会社の連携不足が原因で、大停電を引き起こした例がある」(同紙)のだから、同紙の懸念も尤(もっと)もである。

 政府もそのため、全国の電力需給を監視する広域運営機関を設け、調整の任にあたるとしているが、読売はそれでも、「多数の電気事業者の需給を的確に調整するのは容易ではあるまい。司令塔の機能を十分に果たせるかどうかが問われる」と慎重姿勢を崩さないが、これまた、同感である。

 政府もさらに、そうした場合に備えて、今回の改正案付則に、電力需給の状況などを検証し、「必要な措置を講じる」との見直し条項を設けている。同紙が強調するように、「発送電分離などの効用と弊害を冷静に見極めることが重要」ということである。

 日経は自由化のメリットを強調しつつも、こうした課題、懸念については読売とほぼ同じ認識。毎日は見出しこそ、「消費者本位を…」と視点が読売、日経と若干異なるが、言わんとしている点は、先の2紙と大差ない。

◆視野狭い反原発論調

 違うのは朝日である。同紙は、読売が評価する付則の見直し条項に、「気になる」と問題にしているのである。

 同紙はこれを「検証規定」と称し、電力大手は発送電分離に反対してきた経緯があり、発送電分離について電気事業連合会は「原発再稼働が進んでいることなどが前提になるとの立場だ」と指摘。

 加えて、発送電分離は「再生可能エネルギーの割合を増やし、事故で国民の信頼を失った原発を減らしていくうえでも不可欠な政策だ」と強調するのである。

 しかし、発送電分離を含めた電力システム改革は、先述した通り、電力の安定供給が大きな目的の一つであり、電力の中には、再生エネもあるが、原子力もある。再生エネの割合が増えていく分、結果的に火力や原子力の割合が減っていくというだけである。

 朝日には、安定供給や電気料金の動向など電力システム改革の三大目的の二つの視点が欠け、再生エネ増加だけの矮小(わいしょう)化した偏った議論になっている。原発を殊更嫌う論調のためである。

(床井明男)