核交渉でイラン粘り勝ちの黙認となるNYタイムズのオバマ案支持

◆激しいつばぜり合い

 イランとの核交渉をめぐり米政界で、イスラエルを巻き込んだ激しいつばぜり合いが展開されている。そのヤマ場となったのは、3日のネタニヤフ・イスラエル首相の米上下両院合同会議での演説だ。

 ネタニヤフ氏の招待がホワイトハウスに知らされずに行われたこともあり、オバマ大統領は強く反発、訪米したネタニヤフ首相との会談を拒否するなど、両国関係はかつてないほど悪化している。ネタニヤフ氏を招待したのは共和党のベイナー下院議長だが、イランの脅威を直接受けるイスラエルの首相がワシントンを訪れて、オバマ政権のイラン政策に反対を表明しなければならないほど、核交渉をめぐる情勢は逼迫しているとみるべきだろう。

 米紙ワシントン・ポストによると、ネタニヤフ氏は「二つの主要な譲歩」を挙げ、オバマ氏の核交渉を非難した。まず「ウラン濃縮のための何千台もの遠心分離機を含む、イランの大規模な核開発施設を受け入れている」こと、第二は、合意に期限が設けられていることだ。そのため「わずか10年でイランは、核物質の生産を自由に拡大することができる」ようになる。

 ネタニヤフ氏はこれについて「核爆弾の道への地ならしとなる」と主張した。

◆ポスト紙は強い懸念

 ポスト紙社説は、「10年以内にイランを制裁から解放し、無制限に核開発能力を持つことを認めることが受け入れられるだろうか。政府はネタニヤフ氏への政治的攻撃を続けるよりも、現在検討中の合意が正当だとどうすれば説明できるかを考えるべきだ。それができないなら、合意は見直すべきだ」と現行の合意案に強い懸念を表明した。

 ネタニヤフ氏の主張に肩入れした格好だが、ニューヨーク・タイムズ紙はこれに真っ向から対立、ネタニヤフ氏を批判し、現在の合意案を擁護している。

 同紙は社説で、ネタニヤフ氏は「ヒーロー」のように共和、民主両党の議員らに迎えられたと伝える一方で、「これほどまでに人心を巧みに操るさまはワシントンでもあまり見られない」と皮肉った。

 また、演説の内容については「まったく新しいものはなく」「17日に議会選を控え、安全保障で毅然とした態度を示すためのパフォーマンス」だと訴えた。

 また、合意案について「イランの施設が解体されることはないが、重要な施設は再構成され脅威は減る。ウラン濃縮に使用される遠心分離機も削減される」とイランの核開発能力は抑制されると主張。合意が交わされなければイランは「無制限に計画を進めることになる」とオバマ氏の合意案を手放しで受け入れた。

 しかし、これはイランの限定的な核開発能力の維持を認めるものであり、ネタニヤフ首相の言うように、いずれイランは核爆弾を保有すると考えるのが自然だろう。核交渉は、イランの核開発能力そのものを奪うことを目指して始められた。だが、オバマ政権になって以降、イランに限定的な核開発能力を認めていくように変わっている。

◆大きく後退した交渉

 ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、トマス・フリードマン氏は3日付のコラムで、「米国の立場はこうだ。イランは、制裁にもかかわらず、すでに爆弾を作る技術をマスターし、そのために必要な部品すべてを輸入する術を知っている。そのためイランの爆弾製造能力を排除することは不可能だ」と、核開発能力の排除は交渉の中で既に放棄されていることを指摘している。

 これは、イランの核開発能力の破壊を目指していたオバマ政権以前の交渉から見れば、大きな後退だ。フリードマン氏によると、オバマ政権は「可能なのは、イランが濃縮などの技術開発を手控えるよう求めることだ。そうしておけば、イランがいつか、爆弾製造を決心しても、獲得には1年もかかり、それだけ時間があれば、米国と同盟国で破壊することが可能だ」と考えているという。

 一方で、核爆弾を保有しないよう監視と査察を続ければ「イランが国際社会に統合されていく可能性が出てくる。結局、イランの核への野望を削ぐ唯一の安全策は、イランの政権の性格が内側から変わっていくことだ」と主張する。だが、革命から36年間、イランは反米、反イスラエルの姿勢をかたくなに貫いてきた。「内側から変わる」という期待がどこから出てくるのかは全く不明だ。

 タイムズ紙社説は、「議会の責任は、米国の安全保障を促進する選択をすることにあり、それにはイランとの厳格で達成可能な合意も含まれる」と結んでいるが、イランの粘り勝ちの感はぬぐえない。

(本田隆文)