川崎中1殺害事件で18歳主犯の実名・顔写真を掲載した新潮の算盤
◆残虐な犯罪に「保護」
川崎中1殺害事件で、週刊新潮(3月12日号)が主犯の18歳少年の実名報道に踏み切った。顔写真も掲載している。これまでも、残虐非道な少年犯罪が“少年法の壁”に阻まれて、被害者を“晒(さら)しもの”にしながら、加害者を保護するという理不尽が続いていた。新潮の投じた一石は「選挙権18歳引き下げ」論議と相まって、少年法61条(詳細な報道の禁止)を打ち破る契機となるのだろうか。
同誌は事件をまとめた記事の他に、「『少年法』と『実名・写真』報道に関する考察」を載せた。この中で、実名報道に至った理由を、「18歳とはいえ、少年法で守られることが、あまりにも理不尽だと考えるからだ」と述べている。
少年法がなぜ実名報道を禁じるかについて、「元日弁連会長の宇都宮健児弁護士」が同誌に語る。「(少年が)社会復帰することを前提に考えている。(略)実名や顔写真が出回っていた場合、更生の障害になる可能性が高い」との説明だ。宇都宮氏といえば、2013年の東京都知事選に社民党、共産党などの支持で出馬した人権派弁護士で、実名報道した週刊誌などにしばしば「抗議」する側の人物だ。
これに対して、「筑波大学名誉教授の土本武司氏(元最高検検事)」は、同法が制定されたのが昭和23年で、「空腹に負けて店頭からパンを万引きして飢えをしのいでいた(略)非行少年を想定していた」時代のもので、その後、4度改正されはしたものの、少年の実名報道を禁じた61条は手付かず。「大人顔負けの残虐な犯罪を犯すケース」までも相変わらず「保護」しているのが現状だと解説する。
同誌に限らず、週刊文春などがときどき凶悪少年犯罪で実名・写真報道を行うのも、同法が既に現代社会にそぐわないからだ。
◆ネットで出回る実態
そして、もう一つの理由が「インターネット」の普及である。既に今回の事件でも早い段階から、犯人たちの実名、顔写真が流布されていた。少年法は「活字メディア、テレビ」を規制するだけで、ネットは同法の埒外にある。「上智大学文学部の田島泰彦教授」は同誌に、「もはや実名か匿名かを法律で一律に規制すべきかどうか、検討の余地がある」と指摘している。
もっとも、ネットには検証されない情報、間違った情報も無責任に出てくるし、時に必要以上の「私刑」(リンチ)が行われることも多く、これはこれで別次元の検討が必要になる。
さらに「考察」では、こうした現状にもかかわらず、少年法を「絶対視して」一切、実名・写真報道をしない大手マスコミの姿勢にも批判を向けている。「『人権と報道・連絡会』世話人の浅野健一氏」は、「20歳の青年が万引きで実名報道される一方で、19歳の凶悪殺人犯が自動的に匿名になる。この論理矛盾を説明できる社はあるでしょうか」と語り、「批判が怖くて思考停止しているだけです」と断じた。
「考察」は国政への影響にも目を向ける。「現在、国会では投票年齢を18歳に引き下げる公職選挙法の改正案提出が予定されている」とし、「これに合わせるように少年法の適用年齢を引き下げるべきだという意見が出てきた」と伝えている。
◆改正を提起する文春
この件に関して、週刊文春(3月12日号)は、「時代遅れの少年法を改正せよ」の記事で、「時代に即した法改正が必要だ」としつつ、20歳は「国際的な基準から見ても年齢が高い。(18歳への)引き下げは妥当」だと主張する。
今回の事件を受け、自民党の稲田朋美政調会長が、「改正に前向きな発言」をし、「国会でも少年法改正に向けた動きが出始めている」と文春は伝えている。
凶悪少年犯の実名・写真報道の流れは、週刊誌以外にも広がるのかどうか。放送法というタガがはめられたテレビは枠を出ようとしないし、新聞は法遵守(じゅんしゅ)を続けるだろう。結局、週刊誌だけが注目を集めることになる。
週刊新潮が発売される前日、「実名報道している」というニュースが共同通信で流された。発売日当日、スタンドにはライバル誌週刊文春が高く積まれていたのに対して、新潮は残り少なくなっていた。販売部数では勝負あった? 「売らんかな」の週刊誌だが、少年法議論はこの後も深めていってもらいたいものだ。
(岩崎 哲)





