海外で「同性婚」容認増加と紹介しても、問題点に触れぬ「TVタックル」
◆性的少数者に親和性
「単純接触効果」という心理学用語がある。何度も見たり聞いたりしていると、抵抗感が薄れ、好感度が高まるという心理現象だ。近年、日本のテレビに、女装タレントをはじめとした、いわゆる「性的少数者」が登場しない日はない。
社会通念にとらわれない生き方を選ぶタレントらの辛辣(しんらつ)な発言が視聴者受けするなど、起用される理由はいろいろあるだろうが、テレビ・芸能界で働く人たちは単純接触効果によって、彼らに親和性を持つようになるはずだ。近年「LGBT」(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)の人権をテーマにした番組が増えているのもうなずける。
討論バラエティー番組「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日、月曜午後11時15分)は3月2日放送分で「同性婚はアリ?ナシ?」と題して、「同性婚」の是非を取り上げた。この日、東京都渋谷区が同性カップルに、「結婚に相当する関係」と認める証明書を発行する条例案を提出しており、これを受けての企画だったが、ご多分に漏れず、世界20カ国で同性婚を認めていることを紹介したあと、「この勢いについていかないといけない」と発言する出演者がいるなど、この番組も同性婚推進のトーンに包まれていた。
女性同性愛カップルも含めて討論に参加した11人のうち、明らかな慎重派は自民党衆議院議員、柴山昌彦(弁護士出身)だけ。差別の問題と同性カップルを法的に認知することとは別の問題。しかも「経済的制度と違って、家族制度や文化は一挙手一投足には変えられない」と奮闘したが、孤立無援状態だった。
◆上から目線の同情心
バラエティーなのだから、婚姻制度の本質を認識した、深い議論は期待できないことは分かっていても、「(同性愛者は他人に)害はないのに」あるいは「(同性愛者が)いるんだったらしょうがないじゃん」と、性的少数者に同情的な発言をしながら、上から目線でいるグラビアアイドルやお笑いタレントには笑ってしまった。問題の本質がまったく分かっていないのだ。
渋谷区の条例案は、同性カップルでも「結婚に相当する関係」と認めるというのだから、婚姻制度と切り離して考えることはできないし、人間の内面に関わる問題でもある。婚姻制度とは、子供の福祉のために、同居・貞操義務などを課して夫婦の放縦にたがをはめるためのものである。同性婚推進派は、制度によって保護される子供のことよりも、性的少数者の権利を上位価値と見ているのだが、その根拠についてはまったく触れない。というよりも、子供のことは眼中にないのだろう。
ビートたけしは「お父さん」「お母さん」という概念をなくし、「『親』でいい」と言った。番組の冒頭に、子供を育てる女性カップルの映像を流したからだが、この発言でも分かるように、同性婚問題を突き詰めると「夫婦」に対する人間の意識の問題にたどり着く。渋谷区の条例案は学校教育で「少数者に対する理解」を深めるための具体的に取り組むことも謳っている。成立すれば「お父さん」「お母さん」についてどう教えることになるのか。ことによっては子供の“洗脳”になる。保護者としては深刻な問題だ。
レギュラー出演者の阿川佐和子は「一夫一婦制の歴史はものすごく短い」と言ったが、制度としての同性婚の歴史はさらに短い。米国では、同性婚への反対を表明して社会的な制裁を受ける事例が多く起きるなどの混乱が生じている。番組はそんなことにはまったく触れない。
◆子供が実験台の恐れ
最も懸念されるのは子供への影響だろう。子供は男女の結合から産まれるというのは自然の摂理であり、その子供を守るのが婚姻制度の核心だからだ。同性婚を認めた国は、ほとんどが養子縁組資格も認めている。同性カップル家庭で育つことは、子供の人格形成にどんな影響を与えるのか。それがはっきりするのはこれから。だが、子供は実験台ではないのである。
TVタックルを見ていて、単純接触効果は言葉の世界にもあることに気づいた。「異性愛」「同性愛」という言葉に、最初は違和感を覚えても女装家やお笑いタレントらが何度も口にするうちに聞き慣れ、結局、違和感がなくなってしまう。社会に重大な影響を与えるテーマを笑いのネタにし、それでいて視聴者の意識を知らず知らずのうちに変えてしまうところにテレビの恐ろしさがある。視聴者に明確な価値観が求められる時代になった。(敬称略)
(森田清策)










