宗教戒律に無頓着な日本人の軽率な行為にテロの危うさ報じた文春

◆警察情報追った新潮

 イスラムスンニ派過激テロ組織「イスラム国」は2人の日本人を殺害し、さらにその刃を日本にも向けると公言した。週刊誌はこの話題で持ち切りだ。

 週刊朝日(2月13日号)は安倍晋三首相に対し、「イスラム国対策支援2億㌦表明」が彼らを刺激する危険性を考慮したのか、と疑問を投げかけている。まるで2億㌦支援が2人の死を招き、「日本が敵視され」るようになったと言っているようにも聞こえる。

 日本は有志連合の一員として自衛隊が空爆をしているわけでもない。手の施しようもなく周辺国へ大量流出してくる難民への支援や、貧困から暴力への連鎖を断ち切るための民生支援など「人道支援」を行っているのだ。もともとイスラム国はその人道支援でさえ「許さない」と反発していたのだから、日本が行っている通常のODA(政府開発援助)も十分に彼らを刺激していたことになる。

 発表の時期と場所が問題だと言うかもしれないが、まさに安倍首相はそれを考慮して発表したのだろうし、反発や報復を恐れて何もしなければ、例えば、道端に倒れている人を見過ごして、何時間も放置するような国と同列になってしまう。日本がその国力に見合う国際貢献をせよと、同誌は一度も説いたことはないのだろうか。

 とはいえ、日本がターゲットにされるとなれば、対応策がどうなっているのか、関心を持たざるを得ない。週刊新潮(2月12日号)は、警察庁などが警備強化している様子を伝えている。

 警視庁外事三課が2002年に摘発したパキスタン国籍の人物は、「アルカイダのナンバー3の指揮下にある米国のオフィスと頻繁に連絡を取り合っていた」という。事務所から発見されたのは、「0系から800系に至る新幹線の写真」で、「テロ対象として新幹線に強い関心を抱いていたのは間違いありません」と「公安関係者」は語っているというから穏やかでない。

 それと「複数の原発施設」「米大使館のある虎の門周辺」も狙われる可能性があると指摘している。

◆ネットで宗教を弄ぶ

 今回の騒動で一番目を引いたのは、ムハンマドを冒涜(ぼうとく)した絵をネットにアップした徳島在住の日本人に「殺害予告」が出て、警察が身辺警護しているという話だ。週刊文春(2月12日号)がスクープとして伝えた。

 ツイッターに上げられたのは「大天使ガブリエルがムハンマドの額を銃で撃ち抜いている」イラストだ。日本にフランスばりの「表現の自由」があるとは思わなかった。敏感な宗教問題に触ったのは蛮勇か無知か。

 イスラムでは偶像を禁止しており、もともとムハンマドの肖像さえない。さらに彼が大天使から啓示を受けるという、イスラムにとって原点の尊い瞬間を茶化したことは、ひどい侮辱になる。過激テロ組織が「殺害予告」を口にするのも無理ないことなのだ。

 同誌によると、特定された人物の「アルバイト先」にまで電話や電子メールが届いている。さらに、この人物の情報をネットで拡散する輩(やから)まで出てきている。よほど、日本人というのは情報やテロに鈍感で無防備なのだろう。信じられない対応だ。

 だが、同誌はもっと驚くべき情報を載せた。この人物は本当は別の「県内の十代女性」の可能性が高いというのだ。しかもこの人物「一向に反省の様子はない」という。同誌が電話してみると、女性は驚いて関与を否定し、すぐに切ったという。警察関係者もこの女性に探りを入れている。

 同誌は、「今や、誰もが一瞬でテロを誘発する危険を孕(はら)んでいるのだ」と警告しているが、彼女の軽率な行動によって、今では顔写真を含め素性が世界中にばら撒(ま)かれた状態で、非常に危険である。

◆後藤さん実兄の節度

 同誌はまた、後藤健二さんの実兄の「手記」を掲載した。後藤純一氏は、「健二が多くの方々にご迷惑をおかけしたことへのお詫びや、政府や国民の皆様への感謝の言葉を述べる責任があると考えました」と、手記を出した動機を明かしている。いい記事だ。

 弟を殺された悲しみの中でも、節度のある態度を守る姿からは、余計に無念さや悲嘆が伝わってくる。後藤さん、湯川遥菜さんの死から日本は多くを学び、それを生かしていかなければならない。

(岩崎 哲)