人質殺害映像に各紙談話でイスラム観形成に冷静さ求めた専門家ら

◆ジャーナリスト受難

 イスラム過激派組織のいわゆる「イスラム国」(IS)に日本人2人が拘束され身代金やテロ事件犯死刑囚の釈放を要求されていた人質事件は、湯川遥菜さんに続き、フリージャーナリストの後藤健二さんを殺害したとみられる映像が公開される事態となった。ISの極めて卑劣で残虐、許し難い行為は日本と世界に大きな衝撃を与えた中で、改めて日本人に、テロに屈しないで戦う国際社会と連帯して毅然(きぜん)と責任を果たしていく自覚を促す契機になったように思う。

 事態をどのように受け止め、考えていけばいいのか、各紙が掲載した外交・中東や危機管理などの専門家らの分析、意見などをウォッチする。

 メディアの一端に身を置く者として注目したのは、後藤さんの妻を支援してきた英国のジャーナリスト支援団体「ローリー・ペック・トラスト」のティナ・カー代表のコメントである。

 「テロリストはかつて、自分たちの味方であるかどうかはともかく、世界で何が起きているかを伝えるジャーナリストに大きく依存していた。またジャーナリストは自分たちのメッセージを伝える役目も果たすことから、特別視してきた。/(しかし今や)…『イスラム国』などは自らのプロパガンダを自在に発信でき、ジャーナリストはもはや不必要と考えるようになっている。そのため彼らはジャーナリストに敬意を払わず、保護しようともしないのだ」(産経2日)。

 危険を十分に承知していたはずの後藤さんが、なぜ凶徒の支配する区域に飛び込んで行ったのか。カー氏はジャーナリストを取り巻く環境が今日、一変してニュートラルな立場でも安全でなくなったことを指摘している。こうした変化への対応をメディア関係者は決して軽視してはならないのである。

◆中東人道支援を支持

 危機管理や中東の専門家は人が限られているのか、あるいは慰安婦報道の不祥事で深く反省した朝日が人選の幅を広げたからなのかは分からないが、いくつかの媒体に登場した専門家もいる。

 公共政策調査会第1研究室長の板橋功氏は産経と朝日(同)にコメント。日本政府の対応について「日本政府、国民は冷静に毅然と対応した」(産経)、「日本の冷静な対応は妥当だった」(朝日)と総括した。朝日では、ISについては「単なるテロ組織ではなく、情報機関か外交に携わった関係者が組織内にいる」と分析し警戒。親欧米のヨルダンを巻き込んだのは「国際社会の結束を乱すことも目的のひとつ」だとし「2人の命が奪われたのなら結果は重い。しかし、対日感情がよい周辺諸国に反感をもたないことが大切だ」「周辺国に人道支援をする姿勢を貫いてほしい」と説いた。

 産経では「『紛争地域には行かない』という大前提を国民が強く認識すべき」こと、「在外邦人の保護をはじめ、企業や日本人学校などの警備徹底」の必要に言及。そして朝日同様に「日本は今後も人道支援を続けることが、最終的な国際テロリズム対策の貢献につながる」「中東諸国の親日感情は特別で、日本にとっての貴重な財産」だと評価した。

 中東への国際支援継続の必要は朝日、毎日、小紙(いずれも2日)で東京外語大教授(アラブ地域研究)の青山弘之氏も強調した。「中東への国際支援や協力をおろそかにすればISの思うつぼ」(毎日)、「(安倍首相の中東支援表明が事件の引き金と)批判する声があるが、世論の対立は相手にとって好都合でしかない」「我々がすべきことは、交渉を担ったヨルダンへの感謝や協力姿勢を示すこと」(朝日)など。

 元外交官で作家の佐藤優氏も「(難民への人道支援は)武力攻撃と同じぐらい大きな意味を持つ」(小紙)、「中東支援を続け、イスラム国の壊滅に向けた行動」(産経4日)の続行を語っている。

◆存在感の誇示が目的

 また日本エネルギー経済研究所理事の保坂修司氏は、今回の人質事件をISの「存在感、内外に誇示」(日経2日)、「大きな事件を起こして組織の存在感を高め、戦闘員の募集や資金集めを促進すること」(産経3日)が目的だと分析。日本は「国内において正しい情報を発信し、反イスラムの機運が高まることを防ぐ必要がある」(産経)と指摘した。「イスラム教全体に偏見や反感を抱くことは、逆にイスラム国にテロの口実を与えることになる」(小紙)と日本人のイスラム観形成に冷静な対応を求めたのである。

(堀本和博)