「イスラム国」邦人人質事件を過激派組織同士の競争と見た「新報道」

◆守勢に立った過激派

 シリアとイラクに勢力を持つ中東の過激派組織「イスラム国」が日本人人質1人を殺害したとみられ、解放に向けた交渉は難航している。

 フランスで先月7日に起きた風刺週刊紙「シャルリエブド」襲撃事件の衝撃から時を経ずして、安倍晋三首相の中東訪問に合わせて「イスラム国」が20日、湯川遙菜さん、後藤健二さんを人質に「72時間」の期限を定めて身代金2億㌦を要求する動画をネットに流した。

 24日深夜には、湯川さん「殺害」の写真を持つ後藤さんにヨルダンで自爆テロを行った女性死刑囚サジダ・リシャウィと自身との交換に要求を変える内容などを語らせる動画を投稿。27日夜には再び後藤さんがヨルダン人パイロットの写真を持ち同死刑囚との交換の期限を「24時間」と区切ることを告げる動画が流れた。その後も動画を流し交渉は困難を極めている。

 25日朝の報道番組は、24日の動画を受けての報道と専門家らによる分析だったが、事件の背景に石油施設が空爆で破壊されて収入源が断たれるなど、「イスラム国」に集まった過激派が守勢に立たされた変化を読み取っていた。

 テレビ朝日「報道ステーションSUNDAY」に出演したキャノングローバル戦略研究所研究主幹・宮家邦彦氏は、「最近のイスラム国は去年の6月のような破竹の勢いはない。……運動としてのイスラム国は曲がり角に来ている」との認識を示していた。

 また、TBS「サンデーモーニング」でも、寺島実郎氏が「石油施設を失うことは収入という意味において追い詰められている」と述べ、日本エネルギー経済研究所中東センター主任研究員・吉岡明子氏は「中東諸国にいるたくさんの過激派グループが大同団結していく動きにはおそらくならない。石油の密売であれば利権をめぐって対立が深まる可能性もある」と語った。

◆狙いは「注目」と指摘

 フジテレビ「新報道2001」は、日本人人質の映像公開に踏み切った「イスラム国」の「真の狙い」は、注目を集めることという見方を示していた。放送大学教授の高橋和夫氏が「世の中には一定数の非常に過激な思想を持った富裕層がいる」と前置きし、そのような富裕層が「『イスラム国』にお金をくれるのか、ライバル関係にあるアルカイダにお金をくれるのか、競争の時代に入っている。凄(すご)い注目を浴びるということは、その層からお金が集まってくる。あるいは若い兵士が集まってくる」と、過激派同士の「競争」を指摘した。

 同番組は、「アラビア半島のアルカイダ」が犯行声明を出した「シャルリエブド」襲撃事件と張り合うように、今度は「イスラム国」が日本人人質事件を起こしたと見立てた。銃撃事件やナイフで人質の生首を切り落とす残虐な事件が過激派の戦果としてプロパガンダと化す――まさに言語道断の所業だが、これが金集めと人集めの宣伝効果を持つという実に残念な現実が世界の中にある。

 その衝撃と相まって過激派から被害を受けた各国が結束している。国際的な包囲網が形成され、時間はかかるが徐々に過激派勢力は追い詰められていくだろう。が、行き詰まれば過激主義に輪がかかる。すでにパリ銃撃事件や日本人人質「殺害」事件がその例なのかもしれない。

 しかし、だからこそ国際的な団結をして、テロとの戦い、人道援助など硬軟両様の取り組みが必要になる。

◆覚悟がいる中東問題

 事件はゆくゆく我が国の外交・安保・危機管理の課題となる。

 安倍首相の中東訪問について、「サンデーモーニング」では毎日新聞特別編集委員・岸井成格氏は「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交といって欧米との関係を非常に強くして日本の抑止力を強めていくのはアジア対策の基本だった。それを中東に持ち込んでしまった」と暗に批判。ただ、この日の番組では出演者らのいつもの安倍首相批判も抑え気味だった。「イスラム国」が日本人人質の殺害を予告する動画で「アベ」を名指しで非難したためか、テロリストの肩を持つ印象を避けたかったのだろう。

 一方、「新報道」では、高橋和夫氏が日本の外交に関連し、「日本はどちらに立つかという文明の対立ではなく、文明と野蛮の対立なのでチョイスはない。そこにコストは伴ってくる。事件が一段落したところで首相が国民に説明してほしい」と注文を付けた。中東問題には相当の覚悟がいることは確かである。

(窪田伸雄)