2年ぶり改定の宇宙基本計画に安保能力強化を是とした読売と日経
◆沈黙したリベラル系
政府の宇宙開発戦略本部が今月上旬にわが国宇宙開発の2015年度から10年間の基本方針となる新しい宇宙基本計画を決定した。現行の計画(5年間)は13年1月に策定したばかりで、2年ぶりの改定は異例である。
異例の理由は、わが国を取り巻く安全保障環境の厳しさと、安保能力を高める上での宇宙利用の重要性、宇宙産業基盤の脆弱(ぜいじゃく)化である。従って、安保重視、宇宙産業基盤の維持・強化が新宇宙基本計画の大きな特徴になっている。
新宇宙基本計画について、決定後、社説で論評したのは読売(16日付)、日経(同)、本紙(23日付)の3紙だけ。いずれも保守系の新聞で、産経がないのは意外である。
リベラル系では、決定前の昨年11月8日付で「安全保障に偏りすぎだ」と題する社説を掲げた毎日や、11月18日付社説で毎日同様「安保色が強すぎる」とした朝日は、内容が気に入らないのか、あるいは前回と同じ批判の内容になるからか、決定後は掲載なし。東京は前後とも沈黙である。
取り上げた3紙の見出しは、読売「安全保障の能力強化を進めよ」、日経「安保の視点欠かせぬ宇宙戦略」、本紙「安保強化へ着実な取り組みを」である。
◆独自の衛星網を評価
安全保障環境の厳しさについて、読売は「宇宙の軍事利用や強引な海洋進出を続ける中国などの動向に対応するため」と具体的に指摘。本紙も同様に「中国がアジアの海や宇宙で覇権的行動を強める」と記した。
日経はこうした言及はないが、「米国をはじめとする主要国の軍は、衛星に多くの活動を頼っている」「日本の自衛隊も例外ではない」として、新基本計画を「宇宙政策と安全保障が切り離せなくなっている現実を踏まえた内容」と評した。尤(もっと)もな見方である。
読売はまた、「08年に制定された宇宙基本法で安保への利用が解禁されたが、具体化が遅れていた」と日本のこれまでの状況に触れ、本部長を務める安倍晋三首相が「歴史的な転換点となる」と評した今回の新基本計画に対し「着実に取り組んでもらいたい」と強調した。本紙ではそれが見出しになっている。
安保能力強化のため、新基本計画は、①「準天頂衛星」を現在の1基から10年間で7基体制にする、②情報収集衛星の機能を拡充・強化し基数を増やす、③秘匿性の高い防衛衛星通信網を3基体制にする――など具体的に挙げ、こうした宇宙関連技術を、「外交・安保政策、自衛隊の部隊運用に直接的に活用可能なものとして整備する」と明記。
特に準天頂衛星の7基体制は重要のようである。日経は、自衛隊が多くの活動を米国のGPS(全地球測位システム)や軍事衛星に頼っている現状を述べ、「だが、米国の衛星システムも盤石とはいえない。中国は衛星攻撃能力を持っており、ロシアやイラン、北朝鮮が同様の兵器を開発しているとの情報もある」と指摘する。
日経は、日本が独自の衛星網を整備することは「それにより米国への依存度を下げられるうえ、米国の衛星が攻撃された場合、日本が機能の一部を補うことが可能になるかもしれない」として、「理にかなっている」と強調する。一つの見識である。
同計画はまた、準天頂衛星と米国のGPS(全地球測位システム)との連携強化を挙げているが、これについては、本紙が「宇宙政策を通じた日米同盟の深化という観点からも重要」と評価。読売は「宇宙での日米協力を、日米防衛協力の指針(ガイドライン)改定に反映させることが大切だ」と注文を付けた。
◆標準に近づいただけ
読売と本紙は、同計画が宇宙産業の基盤強化のため、衛星の開発やロケット打ち上げ予定を工程表に明示したことを、「産業界が投資計画を立てやすいよう配慮した」(読売)などと評価した。
新基本計画が安保を重視したことに危惧する声も一部にある。08年に基本法ができるまで、日本の宇宙開発・利用が非軍事の狭義の平和目的に限った著しくバランスを欠いたものだったためで、新計画はいわば“世界標準”に近づくだけなのである。
とはいえ、これまでの経験を生かし、「軍拡を防ぐための国際ルールづくりにも貢献してほしい」という、日経が社説の最後に記した提案も、日本ならではと言え一理ある。
(床井明男)