民主党代表選に「新しい公共」など文化共産主義的価値観で煽る朝日

◆日経で戦後70年政治

 18日に投開票される民主党代表選には長妻昭元厚生労働相、細野豪志元幹事長、岡田克也代表代行の3氏が立候補し目下、選挙戦たけなわだ。

 と言っても、維新の党との合併をめぐる暴露合戦や旧社会党を思わせる古典的リベラルの訴えなど“論戦”は内向きだ。これでは政権を任せる気持ちが湧いてこない。

 健全野党の不在。戦後政治はそう言われた。55年体制下の野党第1党は日米安保や自衛隊に反対する社会党で、親ソ派や親中派、親朝派、極左派等々の共産主義グループが闊歩(かっぽ)し、とても政権を任せられなかったからだ。

 日経3日付が戦後70年の政治の歩みを特集し、「民意つないだ疑似政権交代」と指摘するように、自民党は苦境に陥るたび党内の派閥間で政権交代し、自民党一党優位を維持した。その派閥政治を支えたのは中選挙区制で、同一選挙区内に複数候補を擁立するため派閥がカネを集め、サービス合戦(利益誘導)を競った。それで疑獄がたびたに起こった。

 その弊害を克服するため冷戦終焉(しゅうえん)後の90年代にさまざまな論議を経て導入されたのが小選挙区制だ。政党同士が政策論争を展開し、緊張ある政治を生み出し民意の集約を図る。当然、その前提条件は政権交代可能な健全野党が存在するということだ。

 健全を知るには、不健全を考えたほうが早い。かつて英思想家エドマンド・バークは一地域や労組、利益団体や宗教団体の利害を代表する議員集団を「徒党」と呼び、不健全政党の典型とした。バークは政党とは理念・政策を一致させ「国民的利益」を図る結社とし、徒党と峻別(しゅんべつ)した。

 もうひとつ不健全な政党は、議会制民主主義を否定する政党である。ドイツの場合、憲法(ドイツ基本法)で自由・民主主義を否定する政党や団体の活動を禁止しており、連邦憲法裁判所は1956年にドイツ共産党を非合法化し、それ以降、同党の活動を禁じている。これは「戦う民主主義」と呼ばれる。

◆長妻氏出馬仕向ける

 それで小選挙区の導入に当たっては健全野党つまり徒党でなく、かつ共産主義(全体主義)でもない政党の出現が願われた。与野党そろって安保・外交など国家の基軸となる政策で「共通の価値観」がなければ、政権交代はとうてい望めないからだ。

 ところが、民主党は労組依存が強く、共産主義を色濃く残す旧社会党勢力を温存している。そこが民主党の最大の問題だ。にもかかわらず、新聞とりわけ朝日はこうした背景を語らず、ひたすら55年体制に執着する。昨年末、岡田、細野2氏の代表選出が取り沙汰されると、12月26日付「時々刻々」は、「両氏は民主党内で比較的、保守的な考えを持つことで知られており、党内には、2人が自民党に対峙できる明確な理念・政策を打ち出せるか疑問視する声がある」と異議を唱えた。

 朝日新聞と東京大学・谷口将紀研究室の共同調査によると、憲法改正については2人とも「どちらかと言えば賛成」。「日本の防衛力はもっと強化すべきだ」との質問には、岡田氏は「どちらとも言えない」。細野氏は「どちらかと言えば賛成」と答えた。それで労組や旧社会党出身のリベラル派からは「2人とも保守政治家であり、自民党と何が違うのか」(中堅議員)といった不満もくすぶる――として長妻氏の出馬をけしかけた。

 この“教示”が効いたのか、長妻氏は昨年暮れ、「リベラルの旗を掲げない限り党再生はない」と出馬を表明した。朝日8日付社説「白熱の議論が聞きたい」は、「真っ先に問われるのは、安倍政権とは違った価値観の確立」だとし、鳩山由紀夫内閣が掲げた「新しい公共」を持ち出している。

◆「共通の価値観」必要

 「新しい公共」は国家主権を軽視する菅直人内閣の「市民自治」へと発展するが、その底流には「文化共産主義」(ユーロコミュニズム)がある。結局、民主党政権は原発事故で醜態をさらけ出し、国民から拒絶された。それを朝日は再び古びたイデオロギーを民主党に持ち込もうとしている。

 いま必要なのは「違った価値観」ではなく「共通の価値観」だ。それがなければ政権交代可能な健全野党たりえず、自民党一党優位政治が続くことになる。朝日は根本的に読み違えている。

(増 記代司)